疾風迅雷の一ヵ月

岡山映画祭2005の記録


前回2003の反省を生かして(忙しすぎて写真が撮れないという)今回は肌身はなさずカメラを持っていた私ですが、結局あちこちに呼ばれて思いを果たせず、そのかわりスタッフが交替で撮影してくれました。

はじまり、はじまり。

まずは初日のお約束。11月3日の県立美術館。オープニングで挨拶する小川代表です。

「成瀬巳喜男生誕百年企画」は全国各地で開かれていますが、成瀬のサイレント映画にピアノの生伴奏をつけると言う試みはおそらくめったにない上映会だとちょっと自慢。

ちなみに配給元には「地味じゃないですか?」と言われた

「おかあさん」「夜ごとの夢」「めし」の三本立でした。

 で、「成瀬」上映には欠かせない方々。

左から「映画祭成瀬組」チーフの中原さん。

「映画の記憶」主演の松田完一さん。

そして、素晴らしい演奏で「やるせない」成瀬を引き立てて下さった無声映画伴奏者の柳下美恵さんです。

松田さんは、この方がいなければ今回の映画祭はなかったかもしれない・・・という岡山の宝。

クロージングで上映する「映画の記憶」は(この時にはまだ編集が終ってないですが)そんな松田さんの「映画を見ること=生きること」をインタビューした岡山映画祭製作の映画です。

こちらの詳細は岡山映画祭HPのトップから紹介ページをクリックして御覧下さい。

柳下さんはおそらく日本でただ一人の無声映画伴奏者ということです。

スタッフは事前にカール・ドライヤーの「裁かるるジャンヌ」に柳下さんが伴奏をつけたDVDを見ておりまして、もうただ圧倒されるしかない画面と拮抗するピアノという、ジャズの即興演奏を思わせるスリリングな体験をしているだけに、「どんな人なの?」というスタッフの声多数・・・でしたが、ホントに気さくな感じの女性でした。お土産のお菓子も美味しゅうございました。

さて、柳下さんの演奏は、オープニングの最初のピアノの音を聞いた瞬間から鳥肌もの。

舞台が狭いので袖のギリギリのところで弾いて下さる柳下さんの苦労など思いもしないで、私はホントに観客として堪能させていただきまして、今さらながらごめんなさい。

それに強行スケジュールでいろいろ御迷惑をおかけしたかもしれません。

でもまたやりたいです。ぜひ岡山に来て下さい。


「またの日の知華」「ゆきゆきて神軍」

二日目からは「またの日の知華」連続上映。

会場は「オリエント美術館地下講堂」。岡山の知られざる名ホール。

で、今回は16ミリバージョン初公開ということで、現像所からの直送プリントを上映することになりました。

うーんプレッシャーだ・・・。と言ってるかどうか知らないけど、映画祭のイケメン、上映助手の小林さん。

彼が中心となって大学生スタッフが集結した2005です。

映写のチーフは「みどり映画社」の河村さん。ずーっと昔「ゆきゆきて神軍」を岡山で上映して以来「ぜひ原さんの映画の時はスタッフで」と言って下さるありがたい方です。

会場も次第に一杯になりつつあり・・・その外では手に怪我をしているにも関わらずサインに応じる原さんが。

ちなみに、「神軍」を上映する美術館が、国体の絡みでオカヤマを訪れていた皇太子の車列の通り道沿いに建っているということで、会場の外は警察官の嵐でした。よく逮捕されなかった映画祭です。

上映のあとはこれまたお約束のトークです。

今回は原さんと小林さんのお二人に登場してもらって、「映画を作ること」の面白い部分は原さんが、苦しい部分は小林さんがそれぞれ担当して話して下さいました。

そういえば「知華」は「岡山映画祭2000」でパイロット版を上映しております。

その時は吉本さんのパートしか出来てなかったということで、あれから5年。映画は忍耐。

ところで。

岡山映画祭は作品の上映前に「映画祭オープニングビデオ」を上映します。

だいたい2分程度の長さで、映画祭で上映する作品を紹介しつつ、テーマにそったイメージ映像を繋げていくもので、今回2005は鬼才?川端さんの製作です。

彼女はノンリニア編集歴まだ半年にもかかわらずやってしまうところが凄い。

その威風堂々としたオープニング。

でも、監督たちの表情が険しいのは気のせい?

って嘘です。長旅でお疲れのお二人でした。


「鉄西区」

「鉄西区」は場所を「三丁目劇場」に移しての開催です。

岡山には大きな商店街が二つあり、そのうちの表町商店街の一角にある劇場です。

一階は普通の劇場で二階がフリースペースになっている建物で。映画祭はいつも二階を利用します。

この間まで吉本興行が週末に公演をしていましたが、「感動産業」の筈の吉本は撤退し、誘致した市長は突然衆議院議員になってしまうという、ワケのわからんことになってしまったオカヤマを、ある意味象徴する場所ではありますけど、上映はシビアにやらねばなりません。

何しろ9時間の上映なもので。

朝からぶっ続けで見始めて、夜の9時頃終るという体力も必要な上映なので、まず会場の前部分はカーペットを敷き詰めた桟敷です。昼食も満足に時間がとれないので、今回の広告主のパン屋さんにお願いして、「天然酵母パン」の販売とセルフの珈琲を準備することになりました。

しかし、私が用事を済ませて帰った時には、既にパンはこれだけしかなく、珈琲は出来上がりが間に合わないということで、私の昼食は抜き。

桟敷も、皆さん最初はパイプ椅子に座って見ているのですが、第二部になるとポロポロと、第三部にはかなりの人が寝そべって見ているというゆるめの上映会となり、企画者の思惑は大当たりです。

三部完走した観客の皆様、お疲れ様でした。

今回のゲストは明治大学講師の丸川哲史さん。

トークの司会は、映画祭のスタッフでもある吉備国際大学の轡田さん。

「鉄西区」出身のアイジンさんの話から、東アジア全般の話へ、更には轡田さんの勤務先、岡山県高梁市の話まで、話題はグローバルからローカルへと進みつつ、観客の中には「鉄西区」の工場で働いていましたという方もおられて濃い盛り上がりを見せたトークとなりました。


「LEFT ALONE」

場所は同じく「三丁目劇場」です。

外観はこんなところ。

で、そのカラフルさに対抗するようなシブイポスターが惨然と輝く。

スクリーンの側を見るとこんな感じ。

お客さんが皆前傾姿勢になっているのは何故?

で、これまたトークはこんな感じ。

轡田先生再度登場。右側から攻めるのは御存知中原さん。

三人のトークだけでなく「LEFT ALONE」に関して、客席にマイクを回して感想を聞いていきました。

20代の若い人たちは「会話の内容がよくわからない」けど「なんか面白い」

実際に68年を体験した人からはちょっと厳しい意見も出たり。

でもそんな声にも「やっとレフトアローンらしい話になってきましたね」と、ちょっと嬉しそうな井土さんでした。会場の利用時間ギリギリまで伸びたトークは、そのあと飲み屋でも続いたらしい(噂)

井土さんの新作の「シャッター街の話」も少し出ました。

オカヤマはそうでもないですが、周辺の町は深刻です。

ただ、次の日に倉敷に出かけた井土さんは、年に何度もない「朝市」に遭遇し、「全然シャッター街じゃない」とがっかりしていたそうです(噂2)


「ベアテの贈りもの」

共催企画第一弾「ベアテの贈りもの」は県立図書館ホールにて。

去年オープンした図書館のホールは壁面が備前焼の陶板仕上げです。ポスターを貼ると怒られます。

黙って貼っていても巡回に来てやはり怒られます。

中はこんな感じ。机があるのは善し悪しです。つまり図書館では珍しく飲食自由なスペースなので、食事をしながら映画を見ることができます。ついつい食べ物を机の上に並べたりします。

上映する作品によっては気にする人もいるでしょうね。反面、机があるのでアンケートを書くのは凄く便利です。「ベアテの贈りもの」のアンケートの記載率は群を抜いています。

上映の合間は藤原監督のミニトーク。

そしてこの日から5日連続上映のはじまり。


「生命」

で、前日も夜に「S-21」の上映をやっていたりするのですが、私、体調不良のためカメラを持つことができず、不覚をとりました。

県立図書館のデジタルシアター。

いつかリベンジ。


「朋あり」「風のかたち」

共催企画第二弾「伊勢真一監督特集」岡山ふれあいセンターにて。

病み上がりの私を待っていたのは、大会場での上映会。

動き回るスタッフを横目に、私は安静にしておりました。

真ん中は企画チーフの伊藤さん。

なんかNHKスペシャルみたいな写真です。

で、作品はまだ長時間座れないはずの私が、どちらも最後まで座って見続けたほど素晴らしい。

中でも「朋あり」のラストのボレロが魂にきた。

「太鼓うつぞーっ」とワケのわからんことを言ってたらしいです。私。


「S-21」「さすらう者たちの地」「アンコールの人々」

再び会場をオリエント美術館に戻しまして「カンボジア映画三本立」

開場前の静かなひととき。

このあとスタッフは予想以上の数のお客さんに驚きます。

その原動力は、チーフの森谷さん。

彼女は実際にカンボジアにも出かけたこともあり、その関係でJICAやCVSGの方々にも積極的に連絡をとったり、更にはカンボジアからの留学生ダーラさんを招いての試写会など、上映会に至るまでの様々な活動を企画・運営してきました。

岡山映画祭のチーフ制度にはまだまだ問題もあると思いますが、こういうことができるのはやっぱり「やりたい」というチーフが引っ張る(たまに暴走する)システムを続けているからなのかしらと、ちょっとだけ自画自賛。

で、もう一人の功労者は途中からDVの上映担当になった菱川さん。

映画祭ではもうベテランのスタッフとなりましたが、今回も全作品の上映に参加する強者です。

病弱な(えーっ?)私に代わり、中盤以降の映写を引き受けてくれました。拍手。

ということで、映画祭はクライマックスへ・・・。


「岡山映像祭」「映画祭セレクション」

ようやくたどりつくクロージング企画。

11/03から始まってちょうど一ヵ月。嵐のように駆け抜けて、途中死ぬかと思った。

さて、岡山映画祭はいつもクロージングで「これから期待される作家の作品」というテーマで上映を続けています。

今回は左から「GREEN-TEA・R 緑色の涙」の木内一裕監督。

「オキナワTOURIST」の山城知佳子監督。

「花のこえ」の太田綾花監督の3名をお招きして作品上映とトークを行いました。

会場はオリエント美術館。

前の晩は、深夜までスタッフとの飲み会におつき合いいただいた監督さんたちですが、元気元気。

「映画を作ること」は数ある表現手段の一つにすぎないのですが、にもかかわらず「映画」を選びとった「気持ち」とは何だろう? いやそもそも「どうして僕達は映画を愛しているのだろう?」そして、「どうしてまだまだ映画を見たい(作りたい)と思うのだろう?」・・・といった答えには辿り着けないかもしれない問いかけを、言葉を変えながら聞いていく私です。

で、当然答えはみつからないのだけれど。

「誰でも映画が撮れるようになりますよ」と1995年、第一回目の映画祭の時に原将人監督が言ってからちょうど10年。カメラとパソコンの劇的な進化で、本当に誰でも映像作品を作れるようになった現在。

「映画」は逆に特権的なものになってしまうかもしれないという危機感を抱きつつ、でも作者が「これは映画だ」と思ったものは全て「映画」と言っていい、そのスタンスは変えないでいきたいと思ってます。

フイルムで撮っていても映画のスピリットを感じない作品もいっぱいあるしね。

さて、映画祭はいよいよ本当のクロージングへ。

最終上映作品は松田さんのインタビュー映画「映画の記憶」

場所を蓮昌寺に移しての上映ですが、機材車は夕方の渋滞に巻き込まれ、上映開始20分前の到着。

慌てるスタッフ。

私もビデオを回す余裕などありませんがな。

で、唯一上映が終ったあとで、片づけの合間に撮ったのが左の一枚。

若い監督さん達に囲まれる松田さん。笑顔です。

そして、恒例のクロージングパーティは同じ蓮昌寺のホールにて。

松田さんにもおつき合いいただいて、長かったのか短かかったのかよくわからない映画祭を締めくくります。

この乾杯をするために一年かけて準備してきたと言っても過言ではない・・・そんなシアワセな一瞬なのです。


さて、映画祭はこのあとどうなるのでありましょうか?

2006年は年明けから「岡山映画祭2005」の総括をして、報告書を作成するという大切な作業がありますが、同時に「映画の記憶」全国上映を目指して準備を始めたいと思います。

「これから映画を作ろうとされる若い方たちへの励ましになればいいと思いますよ」

という松田さんの映画に込めた思いを多くの方に伝えられれば、岡山映画祭2005は無事終了です。

では。