和牛ET利用は、こんなにもうかる
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出荷前のET和牛子牛 '98.10
昨今の酪農情勢は全国津々浦々申すまでもなく、不満と不安の入り交じった厳しい状況であることには間違いの無い現実であると思います。しかし現状を何としてでも打破していかない限り、酪農家の生きる道はかなり狭められると思います。いきなり全てが解決するとは思えませんが、わずか一ヶ所でも打破できれば又、転がりも変わってくると思います。私は、昭和63年から地域の仲間と関係機関との協力により受精卵移植事業に取り組み様々な経験をしました。
又、北海道よりスーパーカウの導入、和牛農家との連携等で現在はそれなりの成果が上がっております。試験的な受精卵移植から経済性のある受精卵移植へと模索してきました結果、かなりの成果が出てきましたので、この技術と考え方を紹介してみたいと思います。
2.経過
地域で畜産農家がどんどん減少していく中で当初の酪農家と和牛農家がETで連携して和牛を生産しておりましたが、受牛頭数に限りがあり、受胎率の低さもあり労力の割には成果の方が今いちという状況であり、いろいろな情報の中で平成6年より北海道で移植してもらい、それを導入するという方法を取ってみました。分娩近くなって導入しましたが、受卵牛は、かなり悪くて不安もありましたが実際に搾乳してみますと、乳量はまずまずという結果でしたので、引き続いて北海道での移植を続けました。平成7年の結果は(表1)のとおりでした。平成8年も(表2)のとおり好結果がでましたので、平成9年は、北海道導入の牛は、全て和牛ETの牛としました。よって比較は出来ませんでしたが、(表3)の通りすばらしい成果が出ました。
3.大胆な仮説と技術
最近の乳牛飼養管理技術はどんどん進歩しておりますし、又、遺伝的改良速度は確実に進んできていると思われます。特に、分娩前の飼養管理技術の情報には目を見張るものがあり、初産分娩前の管理には重大なポイントがあると思われます。
このことが腹の中にホルスタイン種が入っているのと和牛が入っているのとでは胎児の大きさの差が産後の乳量の差となってくると思います。
大胆な仮説だと思いますが、(珍説かも)ホルスタインと和牛との体重差は後産まで含めると約20s 〜30sぐらいあり、このことで安産できると言うことはもちろんですが、分娩前の栄養摂取上、和牛の方も体重が小さい分、多くの乾物摂取が出来、又、親になるとはいえ、まだまだ発育途中の牛であるため、乾物摂取量が多いだけ親牛の体内に蓄えられる必要養分が多くなり、又、体も大きくなり出産も楽になり、分娩後の食い込みも早く、多くなると思われます。又、分娩前の栄養濃度は乾乳期後半の濃度で最低60日間飼養する。平成9年の成果は(表3)、平成7年、8年の分娩前、乾草だけの給与から改善してスティームアップ期のTMRを購入して(水分45%)自由採食としました。
このような結果から(表4)のようにかなりな収益差が出てきます。私自身これだけの差が出てくるとは考えていませんでした。初産牛の収益が上がる最大の原則としては、乾物摂取量が少ない(18s〜20sぐらい)乳量は食べる割には多いということ。最近の情報では初産牛の一番経済性の高い搾乳日数は340日という研究報告がありますが、(表3)の数字を当てはめてみればだいたい11,000Kgぐらいになると思います。
もうひとつは、取引先との信頼ある連携がかなり重要なポイントであることも忘れてはならないものです。今の酪農界は遺伝から栄養、飼料、機械施設までアメリカオンリ−ですが、アメリカではこのように和牛ET技術を利用した成果は出ていないのではないでしょうか。岡山の山の中でこのような成果を出しそれを日本中へ情報発信し、しいてはそれがアメリカへ着信するようになれば大変おもしろいことだと思います。
4.地域の仲間とソフト力
ここで、特に強調しておきたいことは、私は一人楽農の実践者ということでいろいろな方面より、もてはやされて来ましたが、単なる手抜きの酪農ではなく、いかにソフトを充実させるかということに目を向けてきたつもりでしたが、なかなか成果の上がる事がありませんでしたが、ようやくその可能性を見つけました。一人楽農の楽した部分で次のソフトを見つけることができるようになりました。
要するに、今の時代一生懸命働くことは大切なことですが、今の時代がどういう時代であるか、次の時代はどうなるのかという疑問を持つことが非常に大切だと思います。日本の中山間地域の農業は大変ですが、業種を問わず仲間との連携を持つことが実は自分の酪農を一番に手助けしてくれると思います。
5.和牛のこと
和牛のことに少しふれておきたいと思いますが、日本の和牛と言うよりも岡山の和牛はどうも全国レベルで見れば、少々ランクが低いのではないかと思われます。それには、種々の理由が有ると思いますが、本気で岡山の和牛を飼っている方々は何とかして全国に通用する和牛にしようと、大変意気込んでおられます。最近和牛の世界では育種価ということを盛んに言うようになり、育種価の低い牛は市場相場も安く、なかなか経済的には苦しいようです。しかし岡山の和牛の良さは何と言っても発育がすこぶる良好でET生産された子牛の市場価格は飼育日数で割り算してみますと1日当たりの収益は全国でもトップクラスになり、このことが岡山和牛の大きな魅力のようです。
そこで何とか肉質改良をしようということですが、老齢化した和牛飼養農家では、種雄牛による改良には時間がかかりすぎる。(いつまで生きていられるか分からない)ので、ホルスタイン種の借り腹で一気に優良雌子牛の生産と言うことが急務であると思われます。このように和牛の世界に少々異変が起きているようにも見受けられます。これが私たち酪農家にとって、うまくドッキングできると思います。そのドッキングの接着剤としてET利用技術と栄養学が大きく生きてくると思います。
6.おわりに
最後に今までホルスタイン種に和牛受精卵を移植すると乳量が少ないと言う説を唱えた方はかなりおられたと思いますが、私の経験では、(表1)〜(表4)のようにすばらしい結果が出ました。しかし、時代の違いとでも言いましょうか、栄養学も進んでいなかったせいもあり、又、遺伝的な改良速度が十年前とでは全く違うと考えます。(表1)〜(表4)は、試験場でのデーターではなく単なる一農家のデータですから、信頼度という点については、はなはだ劣るもだろうと思います。経営的に厳しい方、もっとお金を儲けたい方、ちょっとしたアイデアと技術を生かせればそれなりに収益は上がってきますし、どうせ北海道導入で牛をまかなうのなら、多少高くつくし、手間暇もかかりますが、こんなやり方もおもしろいと思いませんか?
これからの酪農をつらい、厳しいの連発では何も生まれてこないと思います。私の多少ホラがかった成果が読者皆様へのほんの少しでも明るいホラネタとして考えていただけたら、日本の酪農家もまだまだ捨てたものではないと思います。この記事を読まれた方のご意見ご感想がございましたらお寄せいただきたいと思います。