7月4日放映 NHKスペシャル「薬害エイズ16年目の真実」を見て

 この番組は、汚染された血液製剤でHIVに感染した血友病患者の川田龍平さんと、当時の厚生省生物製剤課長の郡司氏との対談が主な内容だった。1983年当時輸入血液製剤が危険であるという情報を一番に知り、薬害を最小限にとどめることができた立場にいたのが郡司氏である。彼にぶつける龍平さんの質問のひとつひとつに、私も一緒に固唾をのんで答えを待った。しかし、何一つ明瞭な答えは返ってこなかった。郡司氏はいったいどんな思考回路をもっているんだろう。質問と答えが微妙に食い違っていて、聞いている私はフラストレーションに陥っていく。

 「『アメリカは汚染されている可能性のある血液製剤を回収している』という情報を、エイズ研究班の会合でご自分が報告したことさえ忘れていたのはなぜですか?」

 「そういうことは、私にはあまり重要ではなかった。」

そして郡司氏は、薬害防止には、無意味で形ばかりの対策をとった、と悪びれずに言う。彼の言葉でひとつだけ納得できるものがあった。それは

 「厚生省の構造に問題があるのだ。」という一言だ。

私は、構造だけでなく、構成する郡司氏のような特殊な思考回路をもった人々にも問題があるとはっきり思った。病人の治療に直接あたるわけでもなく、人の痛みが想像できず、医療技術の進歩のみ追い、経済最優先、転勤すれば、「はい、それまでよ。」組織の中での昇進と保身にのみ関心を持つ官僚主義人種だ。

 対談に応じた郡司氏のある種の誠実さは認めたいと思うものの、厚生省の醜い構造の中に飲み込まれてしまったことに何の後悔の色もみせない彼は、全く不気味としか言いようがない。

 録画後、郡司氏から放映中止の申し立てがNHKにあったというこの番組は、厚生省不審と、生きる不安をかきたててくれた。