スイスという国が、私はとても好き。
フランスは、なんとなくよそ者は受け入れてもらえないような感じがしたし、
イタリアは、その国民性から陽気で、おしゃれで、そしてきさくな感じもするが、
反面、犯罪も多くそれなりの緊張感も要求された国だった。
それぞれ、クセのある国が多い欧州に於いて、
私がスイスが好きなのは、治安もいいし人間も忙しくない、
ゆっくり時間が流れていく、そんな感じがするからだ。
レマン湖のほとりを散歩し、シオン城内を観光すると、
この城に所縁の深いバイロンの詩が頭をよぎる。
登山列車に乗って、とある山に登ってみた。
遠くにはモンブランが見えていた。
私の乗ったトロッコ列車は、のんびりと山を登って行く。
しばらくして私はとても驚いた。
私の目の前に、そう、あのハイジの世界が広がっていたんだ!
登っている山はまだまだ高いが、回りの山々は頂上まで芝生。そして羊さんの群れ。
あのアニメの描写に嘘はなかった。
変に感心しながら、更に登山列車は登っていく。
列車は各駅停車だ。
地元の人たちが、普段生活するために使う交通機関でもある。
勿論、私のような観光客もたくさん乗っている。
途中の駅で、とても上品な老婦人が、真っ赤のスキーウェアに身を包んで乗ってきた。
後から、その旦那さんと思しき、これまた口ひげを生やした上品そうな男性が続く。
彼らは、いまからこの列車の終点の頂上まで行って、
スキーをしながら降りてくるつもりなのだろう。
途中から、銀世界に変わった景色をみながらそう思った。
列車の窓の外にはスキーを楽しむ人がたくさん見えた。
この山全体がスキー場になっていた。
老境に入っても、とても仲良くスキーを抱え、
楽しそうに会話している老夫婦をみて、正直とても羨ましかった。
列車が揺れるたびに、旦那さんが何気なく、さりげなく奥さんを庇う。
そして、奥さんも同様に旦那さんを。
二人は会話をしながらも、ごく自然に体が動いている。
そう、この夫婦は何十年もお互いを気遣い、思いやり、
庇い、そして守ってきたんだ。
さりげない態度に、そのことが容易に伺える。
そんな素敵な老夫婦。
いつか、年老いたらもう一度ここに来よう。
そのときは、伴侶を伴ってきっと来る。
あのとき見た、老夫婦みたいに年老いても仲良く、なんの衒いもなく、お互いのことを気遣い、
スキーを楽しめるような、そんな夫婦になりたいものだ。
そんな私たちの姿を若者が見て、ああ、あんな感じいいなって、思ってもらったら
私の人生はきっと成功したと言えるんじゃないかな。。
そんなことを思いながら、列車は白銀の世界をまだまだ登って行った。
頂上までどのくらいの時間が必要だったかは記憶にないんだ。
もしかしたら時間が止まっているんじゃないか、
この列車は永遠に登り続けるのかもしれないな。。
なぜだかそんな感じがした。
ほんの数分、夢を見ていたのかもしれない。
しかし、それすら定かではないんだ。
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