南画入門の山水画構築法
大橋廉堂先生の南画入門という本があり、辻原鼎文先生に南画を習う最初の
段階でこの本があることを教えてもらい購入しました。教室では先輩方が
先生の手本を見て練習する者もおれば、線を適当に入れて山水を作る者も
おりました。我々は環境に育てられるのであり、周りの先輩方のやり方を見て
学ぶのです。線を適当に入れて山水を作るのだと言うことを、何の抵抗もなく
受け入れることが出来ました。へたくそ極まりない画を描いておりました。
先生を送り迎えしていた日々が懐かしく思えます。夜の教室で、先生は御高齢にも拘らず
大雨が降ろうと、大風が吹こうと教室を休まれることがなかった。********
先生に巡り会ったおかげで、山水画の勉強を続けることが出来ました。
山水画の作成方法に色々あると思いますが、南画入門の方法は自分の空想で
山水風景を創るということを、具体的に図をもって教えています。
すでにこの本は絶版で市販されていません。図書館で探さねばなりません。
1部分紹介します。図版はmomoの粗雑なものをデジカメで撮るか又は
本の図版をデジカメで撮るか考え中です。
P20 第4図
脈絡は、すなわち、起伏を現わす線であって、これを大にするときは、
山の峯つづきを現わすことになり、小になすときは、石の表面の
大きな起伏を現わす線となる。
P128 57図
雨窓漫筆に開合は高より下に至るとあるのは、全幅を分合するに、先ず
画布の上辺より下へと数筆をもってするということである。すなわち、
1、2、3の順序である。△印の中腹を脈絡で割ってあるのが、
起伏は近より遠に及ぶということである。
P132 59図
岩の輪郭と鼻準をさらに細かに脈絡で割った如く、合の大骨法に
直接脈絡を付して三方より中心部へ集めたものである。
大幅を処理する場合には、大分合線からいきなり細かな部分を
生み出そうとしては無理である。必ず脈絡をもって大きな起伏を分ってから
細部におよぶのである。また大幅では1、5、9と合線を引いてから脈絡を
つけねばならぬ。
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石の基本線は輪郭と鼻準である。山の基本線は、これに尾根を加える。
古人は、山の輪郭先ず定まり、しかるのちにこれに皴すと言っている。ここ
にいうところの輪郭とは、広い意味で、外輪郭、鼻準、尾根等を含めていうの
である。
第八十六図
先ず外輪郭を定め、次に鼻準を決定し、尾根を分つ。竜骨は、山
頂の起伏で、鼻準と輪郭の中間にある。左図は、輪郭を左右二筆に
とったものである。尾根は鼻準より発して人字人字の如く下向して
客山と連り、あるいは渓流をなす。以上山の大骨法が即ち分合の分
であることはすでに了解されているところである。起伏は近より遠
に至るというのは、手前から、だんだん遠方へと割っていくという
ことである。先ず分合が定まって次に起伏が生ずるのが本道である。
鼻準を第一筆に下し、漸次竜脈を加えて最後に外輪郭をとる法は、
大抵の南画家のなすところであるが、これは便法であるから、砕処
より積んで大をなすの弊を起し易い。
第八十七図
起伏を尾根線上に配置して、中腹を複雑化したものである。客峰
は主峰に*従して大政を翼讃する如くあらしめる。芥子園に古人の
言を引用して日く。「山の輪郭先づ定まり、然る後に之を皴す。今
人は砕処より積みて大を為す。此れ最も病なり。古人大軸を運する
に只三、四たび大分合す。章を成す所以なり。其中に細砕の処甚だ
多く、皴法と一ならずと雖も、之を要するに勢を取るを主となす。
第八十八図
鼻準は輪郭によって支配される。すなわち、山の形勢円きものは
鼻準も流線型であり、形勢峻抜なる峰の鼻準は又けわしき形をなす。
今、右図において、鼻準は輪郭と呼応して岩山の高さを示し、懸崖
の姿を現わしている。左図はさらに細かに割って皴を入れたもので
ある。尾根の下端は上弦をなして、他峰の尾根と合形をなして緩慢
な鞍部を作っている。このように骨法よろしきを得れば整然と山が
形成されてくるのである。
ここに紹介した南画入門の記載部分は山水画を作るときの、基本原則を
説明する。先ず知らなければならないのが、用語の意味ですが
これを読むことによって理解して下さい。
鼻準とは岩山のこちらに向いている鼻先のようなものと考えてください。
57図の説明は、山と谷の配置を3、4本の素直な線で適当に描いて、
山の起伏を、脈絡という線の組み合わせを近い方から遠い方向に
画く。59図は分と合の線、山と谷の大まかな線に方向をもった脈絡をセットで
配布する。訓練された眼にはこれだけで十分な最初の取り掛かりが出来る。
最初の分、合の線と次に入れる脈絡は、同じ属性をもった線である。
南画入門***大橋廉堂著***丸の内出版***S48
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江山別意