[懶惰]
【夏と冬の奏鳴曲】
|麻耶雄嵩 | 講談社 | 文庫 | 1994|
んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん
んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん。
読者にとって暗黙の了解事項、「お約束」を破壊するという行為が、意外性を飛躍的に
増す反面、ネタが出し尽くされたと云われるミステリィに於いてその閉塞感を
暗示するようで、なんとも哀愁を帯びた印象を抱いてしまうのは僕だけでしょうか。
この作品については、ミステリィの在り方を変える記念碑的な作品という評価と、
悪い意味で形式を破壊した問題作という評価があるそうなんですが……。
己的には、どちらかといえば、後者。
【生ける屍の死】
|山口雅也 | 創元推理文庫 | 文庫 | 1989|
な、長い〜〜〜
とにかく冗長なまでに長い。後半は比較的テンポよく進むのでまだ読めましたが、
人物描写と世界観の構築に費やす前半はひたすらタルいです。
なんかエポックメイキングな作品として紹介されてたので読んでみました。んま、
死者が蘇る世界という設定とその活かし方は面白いと思うんですが、
いかんせん設定があくまで"特殊"であるということと、例によって(外国を舞台にしているので)
カタカナが多いのとで、己のストライクゾーンからはやや外角高め。
本当は「ミステリーズ」が読みたかったので次はその方向でいこうと思います。
それにしても、いつかは外国の名作と呼ばれる作品を読もうと思ってたんだけど、
こうまでカタカナに抵抗あるんじゃ、まいってしまう。慣れるしかないかな〜。
【日本殺人事件】
|山口雅也 | 角川文庫 | 文庫 | 1994|
森博嗣「女王の百年密室」を読んだときから微かに感じていたことなんですが、
人名や普通名詞にカタカナが多く使われているとすごく読みにくくて、たぶん苦手。
この作品では外国人の著者が書いたものであるという設定のために、本来日本語である言葉も
カタカナにしているため、読みにくいことこのうえないです。トリック等はまぁ、
普通かなという感じですが、この作品が日本推理作家協会賞を受賞しているという事実が、
良くも悪くも、自分にとって今後の指針になりそうです。
【今はもうない - SWITCH BACK -】
|森博嗣 | 講談社 | 新書 | 1998|
やられた。
いやーーーーーーこれは、面白い。
トリックにばかり気を取られて読み進めていってたら、突然、ずっと隣に潜んでた伏兵に
ハンマーで思いっきり殴られたって感じです。よもや、こんな裏切り方をされるとは
思ってもみませんでした。
それにしても、最初はごく普通に読み飛ばしたり字面のまま受け取って納得している文章を、
真相が判った後に読み返してみると『うっわこれ意味深!』に変化するという書き方が、
森博嗣という作家は本当に上手い。なんていうんだろう、ダブルミーニング……とは
ちょっと違うかもしれないけど、虚と実があるというか。
トリック自体も、仮説の連打で塞いだ推理をよく突破したという感じで良。
実はこの作品、紹介文とかに「森ミステリィNo.1に推す人も多い」とあったり、
巷のレビューでも軒並み評価が良かったりして、不覚にも予断を持った状態で
読んでしまったんですが、大した被害も無かった(と思う)ので、ヨカッタヨカッタ。
難を云えば(個人的には難ではないんですが)、最初にいった最大の驚きが、
シリーズ通して読んでないと全く味わえないということです。
だから下地がないと面白みが半減してしまうけど、それでも単体として充分
面白い作品になっているところが、やるなァと思う。
最後の一文は予想できましたが、それにしてもこの颯爽とした読後感。いや、良い。良いです。
そんなS&Mシリーズ第8弾。
人間が世界を支配してる?
誰がそんなことを言ったのだろう?
もちろん、人間以外に言わない。
【夏のレプリカ - REPLACEABLE SUMMER -】
|森博嗣 | 講談社 | 新書 | 1998|
S&Mシリーズ7弾……なんですが、「幻惑の死と使途」と同時期に起こった事件を
書いており、犀川助教授と萌絵嬢もラスト付近くらいしかメインで登場しないので、
どちらかと云えば外伝的な趣になっております。
んんん、こういう、麻耶雄嵩チックなネタは、書くのが難しいだろうなぁというのが
正直な感想。確かに読み返してみても、うまく複線もしいており明らかな矛盾や不条理な
描写は無いし、意外性も高いんだけど、んどぅぉぉぉぉぉしても心情的に納得しきれない
最後の細い糸みたいなのが引っかかって、後味を落としているのが残念です。
このへんは個人差かなとも思うけど。
たとえば、
「子供に夢を与える」
といいながら、
本当に夢を見る者を
徹底的に排斥しようとする社会。
集団はいったい
何を恐れているのだろう。
【魍魎の匣】
|京極夏彦 | 講談社 | 文庫 | 1995|
匣の中には綺麗な娘がぴつたり入つてゐた。
登場人物それぞれの"物語"が各々の"はこ"をテーマに展開し"偶然"というと云う名の
必然によって交錯する、京極夏彦の怪奇妖怪蘊蓄小説第二作目。
文庫にして1000頁を越える文章量に勝るとも劣らない内容の密度。ひとつの事件を
追っていくのではなく、様々な角度・視点から複数の事件を"偶然"によって
結び合わせ、渾然一体となった物語に一本の筋が通る様を、実に見事に
描いています。
凡庸な探偵小説になることを嫌いつつ、登場人物をして『ご都合主義の三流探偵小説のような
展開になってしまう』と言わしめるような場面ですら逆に重要な要素として物語に取り込んだり、
犯人の動機をあえて明確にしないことで理解に幅を持たせる手法が、とても面白いです。
「動機を変数化する」という表現は京極作品にも強くあてはまると思う。
小説を読んだ際に、読者はその全容を知るのが普通だし、そこから何を考えるかということに
なると思うんですが、この作品(他の京極作品も同じだと思うが)のように、京極堂の云うところの
"事実"とはすべからく"自分"の"物語"なんだという主張を読者自身にも適用し、
小説を読み込んでいく過程で不確定な物語を自分の中で消化・醸造・理解・確立・空想・妄想
できるところが、京極作品の面白さの一つなんでしょう。
とかテキトーぶっこけるような世界を構築できる京極夏彦の頭ん中って一体どうなってんだろうと、
いつも思う。
今作ではなんといっても柚木加奈子だなぁ……。加奈子ちゃんだ。なんつんだろう、こう、
容姿を想像させる描写によって、自分の中で色白の美少女というイメージが浮かびそうでも
ありつつ、どこか儚げで哀しげな印象もありつつ、憂いの表情が様になるような可憐さも
感じられつつ……。
作中のキャラクタを現実の人物に重ね合わせることはあまりしないたちですが、容姿として
近いのはPHSだかなんだかのCMの『でもママには必要ないよね』の娘かな。
でも陽子さんも良い(ぉゐ
この作品が新書で出版されたのが1995年。己、6年も何やってたんだろう。これから先、
これより面白い小説を読むことがあるんだろうか。
あるとしたら「女郎蜘蛛の理」かもという
予想はあるんですが……あんまりよくないな、こういう予断は。
私は匣に手をかける。
匣の中には
【項羽と劉邦】
|司馬遼太郎 | 新潮社 | 単行本 | 1980|
途中の中断期間含め、読むのに足かけ半年近くかかってしまいました。長かった……。
難解な文字が多いのと人物名が覚えきれずたびたび反芻が必要なので、気が乗ったときに
一気に読んでしまわないと封印してしまいそうでした。300頁x上・中・下の三巻。
基本的には劉邦視点の物語で、項羽の死までを描いてます。やはり印象的だったのは
劉邦のキャラクタが三国時代の劉備とすごく似ていること。戦に弱い、大きな"徳"を
もっている、性格がいいかげん……等々。
「蒼天航路」の原作者がモティーフにしたのかどうかは分かりませんが、
敗走する馬車を軽くするため自分の子供を投げ出すエピソードはそのままです。
途中で何度も覇権をあきらめかけ、もう農民として気楽に暮らしたいだとか、
弱気なことを言い出すのも似ています。
反対に項羽は曹操に似ているかもと思ったんですが、項羽の敗因のひとつが配下を信用せず同族ばかり
重用して有能な将をないがしろにしていたことであるのを考えると、少し違うかなと。
立ち読みした横山光輝の「三国志」では曹操はすごく猜疑心の強いキャラとして描かれていたような
気もしますが。
「蒼天航路」しか読んでないからなぁ。たぶん、一般的には横山光輝のような描き方なんでしょう。
それからこの"項羽と劉邦"の時代の出来事から発生した言葉も多く収録されており、語源を
知るという楽しみ方もできました。「馬鹿」「背水の陣」「四面楚歌」などなど。
「虞美人草」については、作中では虞姫の死以外は特に語られていないので分かりませんでした。
いやーーーしかし、歴史物を別段好きではない人間が読むと、これほどエネルギーが要るものかってのを
思い知らされました。面白かったんだけども。ミステリみたいにサクッとは読めないね。
できれば三国志にも挑戦したいんですが、いつになることやら…………。
【あいにくの雨で】
|麻耶雄嵩 | 講談社 | 文庫 | 1996|
あいかわらずだなぁ、この人(w
解説によると麻耶作品としては中途半端で実験作的な位置づけらしいんですが、
カタストロフ的な終わりですべてをひっくり返す構図は処女作に通じるものがあります。
'密室'殺人のトリックをいきなり最初に明かしたり、それも含めた読者の裏切りかたは、
有る意味上手いと思う。ただぶっちゃけた話、己は身内オチがあまり好きじゃないんですね。
読者が探偵役に安心して(?)探偵役を任せられるという暗黙の了解を破壊することで
意外性を演出する、なんというかその禁じ手的な手法が、あくまでミステリに於いては、
好きになれない。
……はずなんだけど、この作品では、なんとなくたまにはいいかなって思ってしまった(ぉ
まぁたまにはってことで。
でもアレだ、物語のひとつの軸になっていた"生徒会スパイ疑獄"に関してはこれホントに駄目でした。
なんだか学園モノのライトノベルを読んでるような気がして、肌に合わないと云うか。
「夏と冬の奏鳴曲」はいったいいつになったら読めるんでしょうか。
【痾】
|麻耶雄嵩 | 講談社 | 新書 | 1995|
「あ」。
麻耶雄嵩の第三作目。「夏と冬の奏鳴曲」が安価で手に入らないからと順番とばして読んだんですが、
とんだ間違いでした。作中で思いっきり夏冬のネタバレしており、気づいたときにはすでに遅し。
ヒイイィィィィィィ!!
これが森や京極作品だったらヘソ噛んで死んでるとこです。ああん……。
内容はなんというか、「翼ある闇」のハチャメチャ感はさすがに影を潜めているものの、
肝心のトリック(と呼んで良いのか)については思わず『ん〜〜むそっちネタかぁ』と
唸ってしまっちゃっちゃ。
作中の固有名詞や人名も癖があるというか、さすがに「わぴ子」はどうなんだと思いましたが。
しかもメインキャラ……。どうなんだ。どうなんだどうなんだ。
どうも時間軸的には夏冬→痾→翼ある闇、のようです。
【翼ある闇 - メルカトル鮎最後の事件 -】
|麻耶雄嵩 | 講談社 | 新書 | 1993|
「姑獲鳥の夏」(文庫版)の解説で麻耶雄嵩「夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)」の名があがっていたので
探していたところ、この作品が処女作だと判ったので読んでみました。
んんん何というか、構造としては面白くできてるんだけど、設定などを後付けでどんどん
付け足していって解決してる感は否めません。それと解説にもあるけど、
衝撃の新事実発覚でドッカンちゃぶ台返しという展開は、やっぱり何度も
使わない方がいいと思う。インパクト薄れちゃうので。
特に最後の最後は……いやもう、下手したらギャグの領域です。
あと、確かに、「最後の事件」なんですね(w
続作でもメルカトルは登場しており、初品に最後を持ってきて逆行していくという作品構造は
試みとしては面白い。
はやく「夏と冬のソナタ」読んでみたいなァ。いや、あるところにはあるんですけどね。
某BOとか、全部半額だし……。某BMは安いけど品揃え悪いし(ォィ
【幻惑の死と使途 - ILLUSION ACTS LIKE MAGIC -】
|森博嗣 | 講談社 | 新書 | 1997|
犀川&萌絵シリーズ第6弾。
脱出ショーの最中、マジシャンの刺殺体が箱から出現し、さらに葬儀の際に衆人環境のなか遺体が
消えてしまう……というお話。
またもやってくれました、という感じの奇抜なトリックに、だんだん積極的(ダブルミーニング)に
なってきた萌絵嬢の活躍、合理的な思考が面白いです。今回はついに萌絵嬢が全面解明?! と
思いきや、最後の最後で犀川先生、素敵です。あの二重構造はかなり衝撃的でした。
驚くのと同時に納得できるから、刺激的だなァ……。ほんとに。
このシリーズではまず、登場人物が様々な仮説を立て、有る程度の合理性があります。
しかし、なにかしらの点でしっくりこない。それは主に動機がからんでいるんですが、
最後に犀川助教授が「解説」することで一応の解決をみるというわけです。
それをギリギリまで引っぱったのが今作でした。
なんだか、いろんな要素がなにげに詰まってて、面白かったなぁ。
記号を覚え、
数式を組み立てることによって、
僕らは大好きだった
不思議を排除する。
何故だろう?
【女王の百年密室 - GOD SAVE THE QUEEN -】
|森博嗣 | 講談社 | 単行本 | 2000|
100年ほどの近未来、閉鎖的な集落を舞台に、サエバ・ミチルとパートナのロイディ
(人間型ロボット)が不可思議な出来事に遭遇する……ってな話。
街の住人は「死」の事実を認めず、「女王」が平和に統治していると言い、「神」の存在を
普遍的なものとするという、いってみれば異様な環境。そこで殺人事件が起こるわけですが……。
実は、ギミックについては「姑獲鳥の夏」と多少共通する部分があります。でも受ける印象
はほとんど違いました。
設定にある種の「特例」を設け、それを密室トリックの突破口にすることが、はたして禁じ手ではないのか
という疑問がふつふつと湧いてきて、自分の中で非常に微妙な評価を巻き起こしております。
そもそも密室の成り立ちからして今までの作品とだいぶ違います。密室の持つ意味、必然性などの
扱いも違う。違うというか、重視していないといってもいいかも知れません。なんなんでしょうか、
この印象は。
2000年7月の発刊なのでほとんど最新に近い作品なんですが、森作品の変節を予感せずにはいられません。
ほんとに悪い想像なんかしたくないけど、十何作も書いてきてアイデアが枯れたんじゃないかとか、
作風が変わったんじゃないかとか、悪いことばっかり考えてしまって……鬱。
この作品はいったいどういう楽しみ方をすべきなのか、まだわかりません。森博嗣氏の近著、
要チェック。
【姑獲鳥の夏】
|京極夏彦 | 講談社 | 文庫 | 1994|
時代設定は戦後の昭和。京極堂こと中禅寺秋彦を中心に、奇妙な噂から始まった事件が
展開する、異色の物語。「姑獲鳥」は「うぶめ」です。
まずなにより、圧倒的な文章力と深い哲学、さらに横溝正史ばりのおどろおどろしい雰囲気に
思わず引き込まれてしまう。
いきなり一章まるごと用いて「心」「意識」「脳」「現実」などについての京極堂理論が展開され、
そのどれもが興味深く、面白いです。名前からしても筆者自身を作中にキャラクタとして据えてるんだと
思うけど、こんな人間が現実にいるのかと思うくらい、理知的というか、論理的というか、、、
変わり者というか。
殺人事件のトリックそのものに関しては、正直な話、もうほとんど「禁じ手」に近いんじゃないかと
思ったくらい奇抜で、それはどうなんだと思ったんですが、そのために用意された複線や諸説を考えると、
考えようによっては絶妙と言えるかも知れない、と思います。
ほんと。これアリなんかって思いましたが。他の作品ではまず成立し得ないでしょう。有る意味、すごい。
しかし、もう、とにかく。
読み物として面白い。間違いなく面白い。文章力って、やっぱ、「目に見える」んだなぁと思いましたよ。
よくこんな作品が生まれてきたものだと、感心してしまいました。次作以降も楽しみです。
「この世には不思議なことなど何もないのだよ」
【封印再度 - WHO INSIDE -】
|森博嗣 | 講談社 | 新書 | 1997|
犀川&萌絵シリーズ第5弾。
壺に入って取り出せない鍵と、鍵がかかって開けられない箱。壺と箱を中心に進む、
非常に奇抜な解決の物語。
以前にどこかのレビュで「進展しそうでしない犀川と萌絵の関係にやきもき」みたいなことが
書かれていて、あぁ森作品らしいなァと思っていたら今作、不意打ちのように衝撃の展開にて
ドッギンマギンです。クリビツ!
今回はいつものように犀川がすべての真相を(警察や萌絵に)説明しきらず、事件の解決としては
多少中途な終わり方になってますが、トリックそのものは本当に奇抜で魅力的。ただ、
気になった点をあげるとすれば、一つには動機があまり俗的なものから離れて高みにいってしまうと
必然性が薄れて納得しづらくなってしまうということと、もう一つは、
子供の証言のギミックについて、現実的に考えるとあの反応は考え難いということです。
言葉の「あや」みたいなのは面白いんですが、どんなに無邪気な子供でも、やっぱりあの場面では
驚いたり母親を呼ぶなどの行動が自然なのではないかと。現実に照らすと成り立たなくなる状況と
いうのが今までほぼ無かっただけに、ちょっと気になってしまいました。
しかし、読めば読むほど、楽しめば楽しむほど、残りの楽しみが減っていくのだという
奇妙なジレンマが、いつもながらのしかかってきます。あー。もう5作目かぁ……。
はやく次が読みたいけど、読みたくないなぁ。嗚呼。
「焼いた?」
「そうです」
「何故?」
「そうすることで、完成するからです」
【詩的私的ジャック - JACK THE POETICAL PRIVATE -】
|森博嗣 | 講談社 | 文庫 | 1997|
犀川&萌絵シリーズ第4弾。
各大学で起こる3つの密室殺人の謎を追う。
森作品は、動機を犯人の口から語らせたりすることはまず無く、明確にされることはあまりないのに、
逆に動機をすごく重要視してるなぁと感じさせるところが、面白みのひとつだと思う。まず動機を
つくりあげて犯人を想定する警察の手法と、トリック自体はほとんど容易に解いてしまうが
動機は比較的後になって理解するという犀川の対比が、毎回面白いです。
今回は特に、「何故密室をつくったか」という部分に焦点がおかれ、それが分かった時には衝撃とともに
納得。しかも、真相解明の途中で『あれ? いや、そんなことあるかい』と思い最初のほうを
読み返してみたんですが、さらに驚愕。いや……ホントに、上手い。
感服しました。
それに、
人間大の物質に関する密室、
細菌大の物質に関する密室、
気体に対する密室、
電磁波に対する密室、
なども定義する必要があります。
外部からいかなる影響も
受けない部屋を作ることは
たぶん不可能です。
【地球儀のスライス - A SLICE OF TERRESTRIAL GLOBE -】
|森博嗣 | 講談社 | 新書 | 1999|
短編集。
基本的に「オチ」をつけていない作品が多く、なんちゅーかおどろおどろしい雰囲気だったり、
一人称の気さくな文体だったりして、他とは作風が違う感じの作品群です。たぶん作者は
こういう作風を自分でけっこう気に入ってるんじゃないかなぁとか思う。
ずいぶんあとになって気づいたんですが、この短編集って、犀川&萌絵シリーズ10作目
「有限と微小のパン」よりあとに発刊されたものなんですね。
………………。
…………。
ああ、よかったなぁ(謎
【まどろみ消去 - MISSING UNDER THE MISTLETOE -】
|森博嗣 | 講談社 | 新書 | 1997|
短編集。
基本的にショート・ショートを思わせる小粒のネタが満載で、トリックがあってミステリィしてるものあれば、
どっちかというと文学的なのまで様々。さすがに一つ一つが短いだけあって、それほど強く
印象に残るようなのはなかったんですが、やっぱり犀川&萌絵が出てくるのは面白い。特に
「誰もいなくなった」は、最後らへん何度も読み返してニヤニヤしてました。うっひょひょ。
まだシリーズでは3作しか読んでない己が言うのもナンですが、もちろん10作も続いたのが
このシリーズだけっていうのもふまえて、犀川&萌絵コンビ以上に魅力的なキャラクタは
今後も描かれてないんじゃないかと思う。それくらい、よくできて面白い。
10作目のラストをちらっとネットでネタバレみちゃったのが相当悔やまれます。んっがっがが。
【笑わない数学者 - MATHEMATICAL GOODBYE -】
|森博嗣 | 講談社 | 文庫 | 1996|
犀川&萌絵シリーズ第3弾。消えたオリオン像と密室の謎。
実は今回、途中でトリックに気づいたというか、『あっ、もしかして?!』って感じになって、
それが「当然の帰結」((c)犀川)とまではいかなかったものの、当たっていたのでそれはそれで
嬉しかったんですが、その分解決時の衝撃が半減されてズコ〜〜!
いいんだか、悪いんだか……。
んが、今回も理系的な思考で楽しませてくれます。文庫版「F」の瀬名秀明による解説によると、
本来4作目に来るはずだった「F」で「完璧な天才」として真賀田四季を登場させるにあたり、いわば前座として
「不完全な天才」である天王寺博士を描いたらしーですが、その天王寺博士と面会して
犀川が『失望した』というのは面白かった。ぬわーるほどな〜〜的。
今回はちょっと、ギミックが大げさすぎた感があるかな。
あ、それから、作中で出てきた数学的問題については、僕は当然解けてません。ふぉっふぉっふぉ。
起源は忘却され
伝統の手法だけが
取り残される。
たとえ、
神のトリックであっても
【冷たい密室と博士たち - DOCTORS IN ISOLATED ROOM -】
|森博嗣 | 講談社 | 文庫 | 1996|
犀川&萌絵シリーズ第2弾。確か2作書きためてデビュー作として『F』を発表したと
どっかで読んだので、これが実際には初稿なのかも。
工学部の実験室で、衆人環境の中、学生の死体が発見されるという密室殺人事件を
理系師弟コンビが推理します。
本当によくこんな事を思いつくなぁと感心させられますが、トリックの奇抜さもさることながら、
キャラクターの描き方や物事の考え方・価値観・方法論など様々な要素を詰め込みつつも、
流れるようにテンポよく物語を進行させる手際は、見事と言うほか有りません。
でも、『F』よりは幾分わかりやすくなっているとはいえ、やっぱり一般的な(?)ミステリィファンの
ように「推理しつつ読み解く」なんてことは自分には到底無理です。今回も
一体どういうトリックなのか、犯人は誰なのか、動機は何なのか、などを出来る限り想像しつつ
読んでいったんですが、結局ほとんど分からないまま真相が明かされるに至りました。あ〜弱。
それから、単なる設定だろうと思っていた事が真相に深く関わってくる意外性には、なるほどなぁと
唸らされます。それがわかっているだけに、小さな事実も見落とせない。そこが面白いのかも知れません。
ところで、この文庫版には解説が2つついてるんですが、どちらも「解説」のくせにめちゃくちゃ難解です。
そのなかで『F』は「動機が理解できない」という声が多かったとあり、自分もまさにそうだったので
ウヲそれを解説してくれるのかニャ?と思ったら、「『動機』こそが『変数化』されることによって
物語を秩序化する軸とな」るという、本編以上に難解な解説がされておりズコ〜〜!
脳みそがハジけそうです。
しかし、動機やその背景が終盤の謎解き部分で明かされる今回のような構造では、いかに
ミステリィファンでも推理には限界があるのではないかとも思ったのですが、
そういう部分も補完して推理する豪者が世の中にはいるのかも。特に森作品では。
小説という形をとりながら、数式が解かれるように論理的な思考のもと解かれてゆく謎が、
実に面白いです。
「僕にはまったく理解できない」
「理解できない?」
「そうだ。答が理解できない」
「答はわかっているのに?」
【すべてがFになる - THE PERFECT INSIDER -】
|森博嗣 | 講談社 | 新書 | 1996|
この作品と全く関係ないこと(たぶん映画か何かだったと思う)でネット検索してた時に、
個人の書評ページでコレについて『真相が判ったとき、夜中で自分の部屋に独りなのに思わず
「うわっ! やられた!!」と叫んでしまった』と書かれてたのを見かけて以来、
は〜んそんなオモシロいのがあるんか、と気になってたんですが、それが
バイト先の買い取り商品の中に一冊だけ新書としてあったんだから、ホントに
偶然というのは面白いです。
一般に「理系ミステリ」と評されるように、コンピュータをストーリーに深く組み込んで
まして、全くパソコンとかいじらない人が読んで楽しめるかどうかはちょっとアレですが、
有る程度知ってる人なら大丈夫でしょう。少なくとも自分はすっっっごく面白かったです。
文系のくせに。
表題からして意味深ですが、実は「F」についてなんのことかってのはあたりがついてて、
それはまぁ当たってたっちゃー当たってたんですが、トリックそのものは本当に奇抜で独創的。
想像も出来なかったです。表題、まじで絶妙。
あと「理系」という事に関して、いろんな書評のページでも話題になってたんですが、ただ
コンピュータが登場するから理系かってーとそういうことじゃなくて、自分も感じたけど
登場人物の思考過程(回路)が、すごく理系的なんです。数学的というか。
そのへんも面白かったし、本編とは少しはずれたところで著者の「天才論」や「現実論」などが
登場人物の口を借りてちょこっと語られてて、それも興味深かった。この主人公シリーズは
すでに全10部で完結(?)してるらしいんですが、それを順に読もうって気にさせる
作品でした。
いやーホント、何が面白いって、人間の想像力が一番面白いよなぁと、こういうの読むたびに
思う。