[懶惰]



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【人形式モナリザ -Shapes of Things Human -】
|森博嗣 | 講談社 | 新書 | 1999|


「乙女文楽」の上演中に、演者が殺害されるという事件が起こる。 衆人環視の中、犯人は如何にして被害者を殺害したか……?
Vシリーズ第二弾。

前作よりは幾分か本格っぽくなってます。
殺人事件の部分もなかなか面白いと思う。ただ欲を云うなら、登場人物による事件の検証と 可能性の列挙・消去はもう少し入念にやって欲しかったかな。
家族構成が解りづらくて自分で図まで書いたんですが、登場人物それぞれの特徴や容疑度を 把握する間もなく物語が終わってしまった感があるので。

こういう現実味のないいかにも本格っぽいトリック、わりかし好きだったりします。
そして相変わらず、動機なんてどうでもいいという体裁を採りつつその動機に絡めて 展開される論理は面白かった。
加えて毒物に関する解決がもっと徹底していたら良かったかも。
そんな感じで。

モナリザに関しては、さすがに途中で気づきました。なにか他で似たようなのを読んだ (もしくは見た)ような気もするけれど……ちょっと思い出せず。

あと、紅子の痴情沙汰(?)というか、嫉妬に狂うような描写は、四季とは異なり人間的な感情も 持ち合わせているという差別化を図るためのものかもしれないけれど、あまり 読んでて気持ちよくはないなというのが正直なところ。
愛だ恋だっていう描写が嫌いというわけではないのだけれど、前夫がどうとかっていうのは、 どうも後ろ向きというか未練がましいというイメージがあって……。このへんは 個人差なのかもしれませぬ。

それから……、新書版の裏表紙のアオリ文に「ラストの一行で、読者を襲う衝撃の真実!」って 書かれてるんだけど、この作品に限らず、こういうのはやめて欲しいです(苦笑)。
あぁ最後に何かあるんだなって意識して読むのは、それが本当に衝撃的な場合であれ、 そうでない場合であれ、あまり良くない予断を抱かせることにしかならないと思う。

文庫版「地球儀のスライス」の解説で冨樫義博(「幽遊白書」とか「HUNTERxHUNTER」の人)が 『アオリ文で「そしてすごいどんでん返しが!」なんていうのは結末が想像できてしまうので やめてもらいたい』というようなことを云っていて、なるほど確かにそうだなと感じました。
ぜんぜん関係ないけど、冨樫義博がキャラの名前に御手洗潔(これはそのまんまですが)とか 使ってることに当時は元ネタなんて全く判らなかったなぁ。実は結構ミステリ好きな人らしい。

まあそういうわけで、全然まとまってませんが、全体的にはなかなか面白かったということで。
それにしても保呂草、今後シリーズ通してなにかやらかしそうです(w


換言すると
「役に立たない」人工物は、
それが物体であれ情報であれ、
目的物であれ手法であれ、
ほぼすべて
神と悪魔に関わっているからだ。





【黒猫の三角 - Delta in the darkness -】
|森博嗣 | 講談社 | 新書 | 1999|


自称科学者・瀬在丸紅子(せざいまる・べにこ)と探偵・保呂草潤平(ほろくさ・じゅんぺい)、 それに大学生の小鳥遊練無(たかなし・ねりな)に香具山紫子(かぐやま・むらさきこ)が 主要登場人物のVシリーズ第一弾。
数字にこだわる連続殺人犯と、密室状況下での殺人事件の謎を追う。

いやぁ…………、良くも悪くも、いきなりやってくれました、森先生(w
これはもう、ほとんど禁じ手ギリギリというか、本当に特殊な「条件」が 必要になるので、本格ミステリとしては…………ってあんまり書くとネタバレに なるのでやめておきますが、単純な衝撃度としては、個人的にはかなりのものが ありました。
それってもしかして己だけだったりして。とか不安になったり。

んが、正直言って、殺人事件の部分そのものは面白くなかったといわざるを得ません。
作中の人物をして『馬鹿なトリック』と評させてますが、哀しくもまさしくその通りで、 この解決は『いやそれ密室じゃないし』とツッコミが入りそうになるし、もちろん 今まで読んだミステリの中にもこれに似たトリックはあったのだけれど、それは 手段とその手順の流れの中で利用されていたからこそある種の説得力を持っていたのであり、 裸で使用されて説得力(読者に対する)があるとは到底思えない、というのが己の感想です。

しかし殺人事件以外の部分や会話は相変わらず面白い……(苦笑)。
今回は「動機」がある種テーマになっていて、また読ませる内容でした。
あとキャラ造形についてですが、紅子は四季をもっと俗っぽくしたような感じで、 保呂草は犀川タイプ、大学生二人組はハジけ気味で萌絵嬢もしくは反町愛のような 位置づけってとこですかね。
いわゆる「キャラ萌え狙い」(しかも萌えられない)として批判されているのが 十二分に解るほど、それぞれ特異な、良く云えば個性豊かなキャラたちです。
これがネックでVシリーズは読んでないって人もたまにいるようですが、 己はまぁセーフってことで。

まぁそんなわけで突入したVシリーズ、なにはともあれ今後も楽しみです。


「遊びで殺すのが一番健全だぞ」
「仕事で殺すとか、
勉強のために殺すとか、
病気を治すためだとか、
腹が減っていたからとか、
そういう理由よりは、
ずっと普通だ」





【死のある風景】
|鮎川哲也 | ハルキ文庫 | 文庫 | 1999(1965)|


結婚を目前に火山の噴火口へ身を投げて自殺した女、旅行先で射殺された女。 点と点の殺人を、鬼貫警部が緻密なアリバイ崩しによって結びつけてゆく……ってな話。

と・に・か・く、これでもか、これでもかといわんばかりの徹底したアリバイ崩し。
己的にはアリバイものはど真ん中ストライクではありませんが、好きな人にとっては たまらない作品でしょう。よくぞここまで徹底できるものだと感嘆することしきり。
列車もかなり絡んできますがそればかりというわけではなく、いろいろな 視点からのアリバイ崩しが本当に地道に緻密に丁寧に為されてます。

読むのに結構エネルギーが要りましたが、なかなかに楽しめました。

鮎川老の作品ではあと代表作といわれる「黒いトランク」、短編ではよく引き合いに出される 「赤い密室」「達也が笑う」を早めに読まないと、いつかどこかでネタバレしそうで こわいです。
後者二つは短編集「下り「はつかり」」に所収されてるはずなんで、買ってこようかなぁ。





【鳴風荘事件 殺人方程式II
|綾辻行人 | 光文社 | 文庫 | 1999(1995)|


死体の髪を切って持ち去るという不可解な殺人事件が鳴風荘で起こる。居合わせた 明日香井響(あすかい・きょう)と義姉・深雪の同級生たちのなかに疑惑は広がり…… ってな筋の、「殺人方程式」第二作。

半密室状況の殺人現場における疑惑の論理と、ペンキ、髪の毛など様々な要素を いかにも本格ミステリって感じで処理しており、なかなか面白かった。
この人の作品って、冷静に考えると『ヲイヲイそりゃなかんべ』とツッコミいれたくなるけど その前に『なるほど面白いな』と感じてしまう、って感じがします。
疑惑の論理が二転三転するのはとくに面白かったな。

あと、巻末あとがきの、ドラマ化の話は涙無くしては読めません(ちょっと大げさか)。
得てして、テレビ局の重役なんて原作の何処が良いのか解ってないし知ろうともしないで 企画だけ進めて、原作を台無しにするもんだ、なんて偏見がありますね、己。
実際、明日香井叶と響の双子を一人の人物にしてしまうなんていう発想は、 原作をどーでもいいと思ってるとしか考えられないなぁ……。綾辻に合掌。

もちろん、館シリーズのイメージを元に制作されたPSゲーム「YAKATA」も、 綾辻本人が制作にわりかし深く関わっているとはいえ、ふんだんにク○ゲーのかほりが しますね。
こーゆー類のゲーム化で成功したのって、みたことないです。

そういえば「すべてがFになる」もゲーム化されたんだっけなぁ……(ボソッ)。





【世界傑作推理12選&ONE】
|エラリー・クイーン編 | 光文社 | 文庫 | 1986|


作家活動とともに、新人発掘とアンソロジー編集の名手としても知られるエラリー・クイーンが 特に日本の読者のために編んだアンソロジー。
収録作品は……

「魚捕り猫」亭の殺人(The Murder In The Fishing Cat) / エドナ・セント・ヴィンセント・ミレー
世にも危険なゲーム(The Most Dangerous Game) / リチャード・コンル
うぐいす荘(Philomel Cottage) / アガサ・クリスティ
オッタモール氏の手(The Hands of Mr.Ottemole) / トマス・バーク
銀の仮面(The Silver Mask) / ヒュー・ウォルポール
疑惑(Suspicion) / ドロシー・L・セイヤーズ
情熱なき犯罪(Crime Without Passion) / ベン・ヘクト
人殺しの青(Blue Murder) / ウィルバー・D・スティール
特別料理(The Speciality of The House) / スタンリー・エリン
敵(The Enemy) / シャーロット・アームストロング
ダールアイラブユ(Darl I Luv U) / ジョー・ゴアーズ
ごらん、あの走りっぷりを(See How They Run) / ロバート・ブロック
三人の未亡人(The Three Widows) / エラリー・クイーン

クイーンはいくつもの「黄金の12選」(ゴールデン・ダズン)を編集したそうですが、 この短編集はど真ん中の推理小説というよりは文学的な趣の強いものになっています。
とくに面白いと思ったのは「オッタモール氏の手」「人殺しの青」「特別料理」。 オッタモールは現代でこのオチにすると禁じ手という声も出そうですが、遙か昔に これが書かれた事を考えると、感嘆してしまう。ラストに異様な迫力があります。 というか実は今まで読んだ小説の中にコレに似た解決の作品があるんだよね……(苦笑)。
「人殺しの青」はわりかし推理小説的。「特別料理」は、おそらくこのネタって あらゆる形で模倣されてるんだと思う。なにか読んだ事あるなっていう気がしたし。 直接的に書かず"ほのめかし"でとどめているにもかかわらず、読むものをゾクっとさせる話 です。

なかなかに楽しめる短編集でした。
いろんな名作を手軽に読めるのって良い。






【ダリの繭】
|有栖川有栖 | 角川書店 | 文庫 | 1993|


サルバドール・ダリの心酔者である宝石商社長がフロートカプセル(ゆっくり入浴する 癒し系装置)の中から他殺体で発見される。しかしその顔からは自慢のダリ髭が 無くなっていた……ってな話。

なかなか面白い。
何故ダリ髭が無くなっていたのか?という謎をはじめとして、事件自体の解決と 論理も良いし、有栖川&火村のコンビも良い味出してます。
殺人に関する真相はどっちかといえばテレビのサスペンスにありがちな 感じもしますが、うまく謎の一部に仕立てているので良きかなと。

新婚ネタはあちらの住人向けですか?(謎





【有限と微小のパン - THE PERFECT OUTSIDER -
|森博嗣 | 講談社 | 文庫 | 2001(1998)|


日本最大のソフトメーカー「ナノクラフト」が経営するテーマパーク「ユーロパーク」を 舞台に、殺人事件とゼミ旅行と愛憎(?)の渦巻くS&Mシリーズ第10弾にして最終作。

ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜む、なんというか殺人事件の部分に関しては、さすがにこれは、 アリかナシかでいえばナシかなと、そう感じてます。
ぶっちゃけた話、証言や事実が嘘だったっていうのは個人的にあまり好みではない (そういうのはむしろアリバイもので活用されるべき手法だと思う)ので、 意外性という面からみてもまぁあまりすっきりできるものではなかったです、正直。
ただ、全体をとらえた場合にはよくできてるかなという気はするし、VRシステムに関する 解決は面白いなと思うのだけれど、やっぱりどうしても納得しきれないなという 思いが残りますね。

森作品に対する評として、某所にて『殺人事件の部分がどんどんつまらなくなっていく』 というものをみかけたことがありまして、それに対しては半分反対、半分賛成といった ところです。
殺人事件以外の部分に関しては毎回間違いなく面白いのですが(苦笑)。

で、今回は犀川研の面々(国枝桃子、牧野洋子、金子勇二、浜中深志)に加えて儀同世津子、 反町愛、そして真賀田四季といったキャラが総登場して活躍(?)します。かといってなにかオチをつけて まとめているわけでもないんで、そのへん「らしい」といえばらしいです。
それにしてもこの反町愛というキャラの造形は、今思うとその傾向が新シリーズにつながってゆく 感じがしますけども、40をゆうに過ぎたおっさん(失礼)が書いてるかと思うと、 なにがしか感慨深いものがあったりなかったり。
このへんが一部から批判されている要因のような気もする(w

そいから。
以前某所で、萌絵嬢のキャラ造形に対する批判として『計算が速いのをもってして天才だなんて、 ちゃんちゃらおかしい』というものをみたことがあります。でもそれは全くもって勘違いで、 一連のシリーズにおいて、演算能力の極めて高い萌絵が"天才"でないことは明確に 描かれているし、むしろ卓越した指向性を持つ犀川こそがそれに近いんだという対比の仕方は 僕にとって非常に面白いものでした。
加えてこの作品では、天才とは「混ざらない」ものだとする論も示されており、 その部分は非常に楽しめましたね。真賀田四季はかなり良いキャラ造形だと思う。

真賀田四季といえば、ラストの部分が最初理解できなくて一体どういう 事なんだろうと首をひねっていたんですが、四季のキャラ造形を考えれば 一応は納得できますね。もっともその設定って他ではほとんど使われていないけれど。

あぁ。
なんにせよ、これで、S&Mシリーズ終わってしまいました。
長かったような、短かったような……。すぐ読んでしまうのも勿体ない気がするし、 かといって溜めすぎて期待を過度にふくらませるのもアレなんで、そのへんの ジレンマはすごくあったです。
それと「有限と微小のパン」に関しては某所で致命的なネタバレ(やっぱあそこは これが怖い(苦笑))をみてしまっていたのでどうなることかと思っていたのだけど、 読むときにはすっかり忘れてて白痴でラッキーって感じでした。
今後もネタバレには気を付けたいと思ふ。

小説を読みだすきっかけを与えてくれたS&Mシリーズに感謝の念を示しつつ、 次からVシリーズに突入します。さて、どうなりますことやら……。


善と悪、正と偽、明と暗。
人は普通、
これら両極の概念の狭間にあって、
自分の位置を探そうとします。
自分の居場所は一つだと信じ、
中庸を求め、妥協する。
だけど、彼ら天才はそれをしない。
両極に同時に存在する事が可能だからです。






【数奇にして模型 - NUMERICAL MODELS -
|森博嗣 | 講談社 | 文庫 | 2001(1998)|


密室の中には死体も容疑者も入っていた……!?
クライマックスも近いS&Mシリーズ第9弾。

たとえば普通に考えたら『そりゃねーだろ』という展開や真相を、ある一定の"論理"の 光を当てる事で面白くすることが巧いというのが、森博嗣に対するイメージとして 強いものになっていて、この作品も云ってみればそんな感じでした。
「犯人の意外性」という命題が強く求められてきた推理小説という形をとりながら、 あえて他の色んな「お約束」をも意識的に重要視しなかったというこれまでのS&Mシリーズから 考えると、珍しい……というか今までに無い処理の仕方をしているのだけれど、 全体としてみるとなかなか面白いかな、といったところ。
ただ、こういうのって解決時のカタルシスが快くないとヤヴァいだろうなっていうのは感じます。

ところで、森博嗣の性格からして犀川と萌絵嬢の関係を露骨に進展させる事はしないだろうなと 思っていたものの、今回の犀川の行動などみると『あぁ、犀川先生、変わったなぁ』と しみじみ思ったり。
シリーズ通しての変化を評して「初期の鋭さが無くなった」とか「俗っぽくなってしまった」 という声もあって、若干同意したくなる思いもあるのだけれど、そういったことも 含めて描かれているような気がするので、それはそれで面白いんじゃないかと思ってます。

今回の話で残念というか不満だったのはやはり、ある疑惑や推論に対して 『そんなことをするはずがない』という決めつけ・思いこみは、事実可能性から その事象を除去する根拠としては(納得できるかどうかは別として)論理性に 欠けるんじゃないか、ということですね。
もちろん、全ての"犯人"が完全犯罪を目論んでいるわけではないし、犯罪なんて 案外こんなもんだよと森博嗣ならいかにも云いそうだなあとも思うから、 納得はできるといえばできるんですけれども。

それから今回のテーマはタイトルにもある通り「模型」で、そちらの話もなかなか 面白かったです。犯人のキャラクタや事件の重要な要素の一つにもそのことが 関わってくるので、ミクスチュアして楽しめました。
あとネタバレになりますが、一連のシリーズに共通する密室殺人にはだいたい 入れ替えor入れ替わりという方法論が 採られていて、この解決の仕方は己的に好みなので、その点、今回も 楽しめたというのはあります。


自分は、
どこまでで一つだろう?
生きていれば一つなのか?
生きているうちは、
どうにか一つなのか?






【御手洗潔のダンス】
|島田荘司 | 講談社 | 文庫 | 1993(1990)|


短編集。

[山高帽のイカロス]
『人間は空を飛べる』と主張していた画家が、まさに飛ぶような格好で 電線に引っかかって死んでいるのが発見され……という話。
まぁまぁといったところ。
いわゆる物理トリックですが、御手洗が足で稼いで明快に解決しているので 気持ちがよいね。あと、この作品に限らず、島田荘司が作中人物(主に御手洗)の口から 語らせる色々な主張などが毎回楽しく読めるのも、けっこうプラス要因だったりします。

[ある騎士の物語]
なんだか、やけに面白いと感じてしまいました。
事件自体は過去に起こったもので、完全に伝聞でありながら御手洗が真相を見抜く という安楽椅子探偵っぷりも潔く、トリックもストレートながら張られた伏線と うまい具合に連鎖して読者にカタルシスをもたらしつつ、適度な余韻を持たせる ラストへ。
うーむ、良い。良作の予感。

[舞踏病]
体が勝手に踊ってしまう爺さんと「幻の塔」にまつわる話。
こちらも、まぁまぁといったところかな。
過去にさかのぼって展開される推理と、わけわからんちんな事件に対する論理的な 解決は楽しめました。

[近況報告]
これはミステリではなく、まさに石岡と御手洗の近況報告。
主に女性ファン向けですか(w
一説によると小説界におけるアッチ向け同人ネタのハシリはこの石岡&御手洗だそうです。 今(少し前?)でいう京極シリーズのポジションの源流ですな。
ファンサービス、てことで。





【帽子蒐集狂事件】
|ディクスン・カー | 新潮社 | 文庫 | 1959(?)|


霧のロンドンを舞台に、連続帽子盗難事件と不可解な鉄矢刺殺事件をめぐって 今回もフェル博士が推理を巡らせる……ってな話です。

う〜む、読みにくい(苦笑)。
翻訳物はとにかく人物の名前や人物像を把握するのにかなりのエネルギーが 要りますね。
そのうえで、この作品は、全体の構図はあらためて考えるとわりかし解りやすいし、 帽子蒐集狂の謎や刺殺事件の真相もスマートな感じで良かったのではないかと。
欲を言うなら、一見「不可能犯罪」のような様相を呈しておきながら比較的普通な 解決でトリッキーな部分が少なかったのと、密室ものではなかったのが ちょっと残念なところではあります。

「密室の巨匠」と呼ばれたカーの考案した数多の密室には"あたり"もあれば"はずれ"も あるそうですが、そのうち『あれは"あたり"だったな』とか思い返せるくらいには 読んでいきたいなぁ。
…………しかし古本屋にほとんど無い罠。





【46番目の密室】
|有栖川有栖 | 講談社 | 文庫 | 1995(1992)|


作家と編集者がパーティに招かれたその夜、これまで45の密室殺人ものを書いてきた 大作家が密室状況下で殺される。 果たして犯人は、そして書きかけの46番目の密室小説は……?ってな話です。

この作家の人気シリーズの主人公は探偵役が犯罪学者の火村、ワトソン役が 作中人物としての有栖川有栖で、この作品は5作目だそうですが、「月光ゲーム」 「孤島パズル」「双頭の悪魔」ときて、この3作は探偵役が火村ではないから、 たぶん4作目が火村の初登場作品なんだろうと思います。
文庫の折り返しの著作紹介でも「マジックミラー」の方が先に来てるから、 てっきりそれが4作目だと思ってたのですが。

んで内容ですが、全体的には面白かったです。
犯人特定の論理も納得できて面白かったし、物語もまぁ良かったかなと。
ただ……作者もあとがきで
『「で、お前のこの本はどうなんだ?」と聞かれたらなら、「これは 密室小説というより、一種のメタ密室小説ですから……」と答えて逃げよう』
と書いているように、密室というものをいったん引いた視点から捉え、個別のトリックと いうよりは一般論的な論じ方に重きを置いているので、たとえば最初の密室とかの ダミー的に過ぎる扱いには肩すかしというか寂しい気持ちになってしまったり……。

密室ものが好きな自分としては、密室がパロディ的に扱われるのを読むと ほんのりうら寂しいです。

ともあれ、最近密室ものを読んでいなかったというのもあって、楽しめたのは確かです。
この人の国名シリーズは短編集が多いみたいで、短編集はサクサク読めてわりかし好きなので そろそろ手を出してみようかなと。





【マジックミラー】
|有栖川有栖 | 講談社 | 文庫 | 1993(1990)|


僕はある新しい作家に手を出すとき、ネタバレを避けながら(避けきれない事もあるけど) ある程度の情報を集めて、「あたり」が多そうか少なそうかという予測をしてから 読み出す、ということをたびたびします。
この「ありすがわありす」というフザケた(と最初は思ったw)ペンネームの作家に関する 巷の評は当初あまり良い声が見受けられなくて、『日本のエラリー・クイーンなんて 称号を得てるけど実際はどうよ?』とか『有栖川なぁ……まぁ爆弾作家(ハズレが多い)だな』 という声が多かったので、まー自分が読む事はないだろうと長い間思ってたんですね。

ところが何かの際に『「マジックミラー」面白かった』という評をみて、 実際に読んでみるとこれがなかなか面白い作品を書く作家じゃないですか。
やっぱ食わず嫌いと予断は良くないなと、再認識した次第であります。

ところでその内容は、犯行時刻に容疑者の双子はそれぞれ現場から遠く離れた場所に いたというアリバイがあり、さらにその双子の一方が殺されるが、頭部と手首が 切断されているためどちらか判らない……ってな話。

論理の展開や、鮎川老をして『その手があったか』と云わしめた時刻表トリックも良かったし、 「第七章 アリバイ講義」もおまけ的な要素でありながら事件の内容を理解する際に 少し絡んできて面白かったです。
解説によると、もう使い古された双子という材料を使って推理小説を書くのは やっぱりある程度の腕がないと難しいそうで、そういう意味ではこの作品はよくできてた といえるんでしょう。
あと、あくまで個人的にある思い違い(空知がシリーズ作品の探偵役 だと思いこんでいた事)をしていたために、他の人より真相でよけいに驚く事ができました(w)。
いいんだかわるいんだか……。

それから、あとがきで書かれてある「アンチ鉄道ミステリ」というのがいったいどういう 意味なのか、ちょっと解りません。きちんとした鉄道トリックを使ってるような 感じだったんですが、どこかパロディ的な要素があったんでしょうか。
んーむ、よくわかんない。

事件自体とはあんまり関係ないけれど、最後の一文が、なんともいえない余韻を残してくれた 作品でした。





【螺旋館の殺人】
|折原一 | 講談社 | 文庫 | 1993(1990)|


なんというか、これだけタイトルと内容が異なる作品も珍しいと思う。
極めて悪い意味で『やられた……』と思いました。
なんでもかんでも作中作にしてしまうのは いったい何故なんでしょうか。何かこだわりでもあるのかなぁ……。

とりあえず、もうしばらく、折原一の作品は読まないと思います。脱力。





【一の悲劇】
|法月綸太郎 | 祥伝社 | 文庫 | 1996(1991)|


幼い男の子の誘拐事件が起こり、警察の努力もむなしく男の子は死体で発見される。 そしてある男が容疑者として浮上するが、彼には事件のあった時間に法月綸太郎と 一緒にいたという"鉄壁の"アリバイがあった……という話。

基本的にこの人の書く推理小説は論理がしっかりとしていて、読み応えがあると思う。
この作品もしっかりと論理を展開させつつ、どんでん返し(裏表紙のアオリ文などで よく出てくる言葉ですが、これがすでにある意味すごいネタバレだという指摘も 多いです(w)))のカタルシスも快く、面白かったです。

ただ難を云うなら、密室の扱いが少しダミー的なのと、ダイイングメッセージには さすがにちょっと無理がある(論理的帰結をしにくい)かなと。
それでも面白いと思えたので、それだけ良くできている作品なんじゃないかと思います。

あと楽しめるのは、法月綸太郎(作中の探偵)のキャラがそんなに嫌いじゃないからってのも あるかもしれないなぁ。
むしろ好きかも。





【暗闇の囁き】
|綾辻行人 | 講談社 | 文庫 | 1998(1989)|


本当にスッポリ内容を忘れ去ってしまったため少し読み返してみたりする ”囁き”シリーズ第二弾です。
黒髪を切られ変死した女家庭教師と、眼球と爪を奪われて死んだその母親の 死の謎を中心に、幻想的な雰囲気の中で進むストーリー。

このシリーズはいわゆる本格ではなくサスペンスという趣に近いです。 体部位滅失の理由と事件の真相が、サスペンスならではの味わいを持って 明らかにされる過程をなかなか楽しむことができました。
核心部分のあるネタの一つも、本格でこれをやられると個人的には萎えてしまうけれど、 サスペンスってことで独特の余韻を残してて良いんじゃないかな。

サクッと読めていい感じでした。
綾辻ではまだ「霧越邸殺人事件」と「時計館の殺人」を残してるから、どっかで ネタバレしないかと不安でしょうがないんだよね……。はやく読んでしまいたいです。





【シャム双生児の秘密】
|エラリー・クイーン | 新潮社 | 文庫 | 1960(1933)|


本当は国名シリーズを順番に読んでいきたいのだけれど、古本屋で見つからないので (なんかこういうことばっかり云ってるような気がする)、いきなり途中のを 読んでしまいました。
国名シリーズ7作目。ちなみにシャムというのはタイの旧称だそうです。

んが……なんだか、いろいろ検索してると、「シャム双生児の秘密」は国名シリーズの中でも 評判が良くないというか、『まぁあれはエラリーが唯一失敗してる話だしね』なんていう 発言もあったりして、ちょっと微妙な感じの作品のようです。
個人的な感想としても、エラリーが推理を再三はずしたり、クイーン警部が○○をXXするなど、 『おいおい』っていうような展開もあったりして、これあんまり本格って感じがしないなァ…… なんて思ったりします。

ただ「右と左」に関する論理は面白かったかな。このへんのネタはおそらくこれ以降の作品で かなり手垢が付けられていることでしょう。

次回はできれば第一作目の「ローマ帽子の謎」が読みたいなと。
でも海外ものって翻訳によって読みやすさが全然違うから、そのへん困るん ですよねー。とりあえず、あまりに昔のやつは大抵翻訳がワヤです(w





【モルグ街の殺人事件】
|エドガー・アラン・ポー | 新潮社 | 文庫 | 1996(1992)|


推理小説の始祖といわれるポーの短編集。
所収作品は
「モルグ街の殺人事件」 「落穴と振り子」
「マリー・ロジェエの怪事件」 「早すぎる埋葬」
「盗まれた手紙」
で、初出年度はおおむね1841年〜1845年です。

このうちいわゆる推理小説の要素を含んでいるものはモルグ、マリー、盗まれた手紙の 3作で、あとの2作はもともとポーが詩も書いていたということを納得させるような 詩的な、それでいておどろおどろしい「恐怖小説」となってます。

全体的に楽しく読めました。
意外に「落穴と振り子」と「早すぎる埋葬」が面白かったです。ぜんぜん ミステリじゃないけどね。
そういえば、モルグは最初、ある漢字が読めなくて一体何がどうなってるのか把握できずに、 辞書で調べて解決するという間抜けぶりでした(苦笑)。

なんにしても、これが推理小説の起源かと思うと興味深いです。
あと短編集が2冊ほどでてるんで、またそれも読んでみようかなっと。





【天井裏の散歩者 幸福荘殺人事件
|折原一 | 角川書店 | 文庫 | 1993|


幸福荘に住む人たちの間で起こる事件を、各当事者が記した記録のフロッピーディスクを 介して読者に語るという、一風変わった形式の作品。

なかなか面白かったと思います。
しかし折原一はなぜか作中作にしてしまうことが多いので、 今回も(まあ作品順序は違いますが)そうだろうと思っていたらやはり そうだったという……。

んーむ。





【三匹の猿 私立探偵飛鳥井の事件簿
|笠井潔 | 講談社 | 文庫 | 1999(1995)|


「バイバイ・エンジェル」か「サマー・アポカリプス」が読みたくて古本屋を 探してるけどなかなか無いので、飛鳥井シリーズから読む事に。

某所で『さいしょ読んだとき、外国小説の翻訳かとおもった』という発言をみて、 笑いつつもしっとり同意してしまいました。
もうとにかく、内容云々より、文章が硬いです(苦笑)。
とくに会話文ですら硬いのは読んでて肩がこるので、ぜんぜん厚い本じゃないのに、 読了するのにやたらエネルギーが要ったのを覚えてます。

内容的に、全体の流れは理解できるのだけど、詳細部分について『それアリですか!  っていうかソレもですか!』と思ってしまうというのがあって、 正直なとこあまり面白いとは思えなかったかな。
もっともこの作品は日本版ハードボイルドというのをテーマの一つとして 持っているから、ハードボイルドが好きじゃないと楽しめないというのは あるかもしれません。

哲学を推理小説に持ち込んだというもう一つのシリーズの方も、 近いうちに読んでみたいと思いまふ。





【殺戮にいたる病】
|我孫子武丸 | 講談社 | 文庫 | 1996(1992)|


いたるところで、『我孫子武丸なら「殺戮にいたる」だな』『「殺戮」が一番面白い』 『○○がXXで△△の中では□□』などと思う存分に前情報と予断を植え付けられておきながら、 いざ読んでみると「や ら れ た」と同時に「うまい」と思わせてくれるところが、 本当に素晴らしいと、素直に思います。

いや、文句なく、面白いです。
ただこういう作品は、読み手の、それを読む時期がすごく微妙な影響を及ぼすんじゃないかなぁ、 とか勝手に心配してみたり。
他の(この作者以外の)推理小説でも、個人的には真相を知って『うわ〜そうだったのか〜〜!』 ってのが他のある人にとっては『半分くらい読んでもう解った』ってこともあるからねえ……。

そういう意味ではちょうど良い時期に読めたのかもしれないです。






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