[懶惰]



[TOP] [戻る]


【治療島】
|セバスチャン・フィツェック | 柏書房 | 2007(2006)|


精神科医ヴィクトルの愛娘が忽然と姿を消してから4年,孤島へ隠居していた彼のもとへ, 自らを統合失調症という女性が尋ねてきて‥‥という話。

いやーー久々に「ページをめくる手が止まらない」状態。
いわゆるサイコサスペンス(スリラー)に分類されるであろう本なのですが,実は最初は このジャンル自体にそんなに興味が無いのもあって,この本単独なら読んでなかったかも 知れないのだけど,この作者の第2作「ラジオ・キラー」のほうがむしろ気になってて, それを読む前にデビュー作を一応読んどくか‥という程度でした。

んがしかし読み始めるともう物語世界に引き込まれて,小さな出来事の配置とか 人物の振る舞いとか,先を気にならせる演出が実にお見事。
寝る前に読み始めてはいけない本の1冊です。

現時点ではあと3作出版されているようなので,楽しみですなー。






【瞬間移動死体】
|西澤保彦 | 講談社新書 | 1997|


その制約のおかげであまり役に立たない瞬間移動能力を持った男が,妻の殺害を計画するが‥‥てな話。

いつものように特殊な設定を元に物語が展開するので,よく頭で理解しながら読み進めないと 混乱しそうでしたが,パズルのような状況設定の中でさらにどんでん返しもやっちゃうという 西澤マジックを楽しめました。

しかしこの妻は個人的にムカつくタイプだわ‥‥。
ギャフンと言わせてやりたいというか,長期間の孤独を味わわせてやりたいというか, そもそも結婚させたくないというか‥‥。

ま,主人公もだいぶダメな奴なんですけどね。






【コフィン・ダンサー】
|ジェフリー・ディーヴァー | 文春文庫 | 2004(1998)|


映画化された「ボーン・コレクター」で初登場した,ライム元科学捜査官とサックス巡査のコンビが 登場するシリーズの第2作目。

いやーーこれは面白いっす。
シドニイ・シェルダンのように次の展開が気になってしょうがない物語展開の巧みさと, 犯人との息をつかせぬ攻防戦,伏線をうまく用いた多重のどんでん返し。
これぞサスペンスという読書体験を満喫できました。

実は「ボーン・コレクター」は映画のみで原作は読んでなくて,理由はなんとなく, 『面白かったけどオチがそっち系か‥というかコレクトしてないし‥』と思ったからかどうかは 知らないけど,まぁもう1作読んでみようか,と手を出して正解でした。

最近の作品「魔術師(イリュージョニスト)」とか「ウォッチ・メイカー」もすごく面白そうだし 評判もいいみたいなので,早く追いついていきたいところ。







【メルキオールの惨劇】
|平山夢明 | ハルキ・ホラー文庫 | 2000|


ブレイク後の平山夢明の文体を髣髴とさせながらも,ちょっとその表現や技術は発展途上なのかなと いう感じがしつつ,やっぱり「平山先生リスペクト」に逝っちゃう,読む麻薬。

いつもながら(執筆順的には逆だけど),いつ死んでもかまわねぇオーラを漂わせる 登場人物や,淡々と進む残虐描写が背骨を寒くしてくれます。

内容的には「羊たちの沈黙」のようなサイコサスペンスと平山ワールドのドッキングって 感じでしょうか。
愉快で狂った笑えるブラックワールドがてんこ盛りで,ゲロ吐きそうです。
でも新作が出たらすぐ読んじゃう。ウフ。






【最後の一球】
|島田荘司 | 講談社新書 | 2009(2006)|


いやーーなんというか,肝心のネタはすぐ想像が付いたしタイトルからしてすでに あまり読書意欲が湧かない感じだったのだけど,島田荘司ならではの語り口で 物語に入り込ませるあたりはさすがかなと思う。

解決編も,いやそれいきなりだろ!って感じなんですが,物語が楽しめたのでヨシ。
しかし,ホントに野球界って素人の想像以上に厳しいんだろうなぁ。






【永遠の終わり】
|アイザック・アシモフ | ハヤカワ文庫 | 1977(1955)|


タイム・パトロールもの。
時間を自由に移動する技術を持った組織「エターニティ」が,各時代を監視・修正しているという 設定で,組織の一員「永遠人」である主人公が,ある女性に出会うことで 徐々に行動に変化を見せ始め‥‥てな話。

己の好きな時間テーマSFを,巨匠がどっしり書いてくれているのでとても楽しめた。
面白かったのは,時間移動装置(エレベーターみたいな小部屋)に乗った主人公が限りなく未来に 移動しようとすると,10万世紀あたりで何かにぶちあたってそれ以上進めない,という描写。
やっぱり巨匠でも時間の果ては「わからない」という処理になったのかなーとか思ったり。

タイムパラドックス的な展開にも,なるほどというオチがつけてあり,楽しめましたよ。






【ロボットの時代】
|アイザック・アシモフ | ハヤカワ文庫 | 1977(1955)|


SFロボットものの作品では古典的戒律となっている「ロボット三原則」をつくったのは アシモフと言われてますが,作品中でそれを提唱した人物とされるキャルヴィン博士が 登場する短編集。

少しでもSFが好きな人なら必ず楽しめる1冊です。
星新一のロボットものをもうちょっと硬質に論理的にしたような雰囲気で, 1話ごとに趣向が凝らしてあるのはさすが。






【鼻】
|曽根圭介 | 角川ホラー文庫 | 2007|


これは素晴らしい。
短編集で,「暴落」「受難」「鼻」の3作品が収録されてますが,日本ホラー小説大賞短編賞を 受賞した「鼻」がやはり飛び抜けて良い。

落ち着いた文体と,異様で乾いた文体を使い分けながら,実は周到に構築された小説世界, それが最後に反転する驚きとカタルシスはお見事の一言です。
他の作品も楽しみな作家。






【DINNER】
|平山夢明 | ポプラ社 | 2009|


残虐職人・平山夢明先生の新作。

恒例の残虐描写もあるものの,本作は作者が持っている「残虐の中にもどこか人間味,どこか愛」と いう要素が前面に出た,ちょっと一歩前に出たような作品になってます。

久々に平山作品が読めて嬉しい。あぁ早くも新作が楽しみゼ。






【フェルマーの最終定理】
|サイモン・シン | 新潮文庫 | 2006(2000)|


ここ数年に読んだ中で,最も面白かったうちの一冊。


方程式 X + Y = Z  について,
nの数が2より大きい場合,これを満たす整数解は無い。

この一見簡単に見える定理を,17世紀のフランス人数学者フェルマーが提唱して以来, 3世紀以上にもわたって誰にも証明することが出来なかった。
それを1993年にアンドリュー・ワイルズが証明するまでの歴史を,数々の数学者の挑戦と挫折を 織り交ぜながら描いたノンフィクション作品。

思うに,文系の人間は,理系それも数学系の分野に対して潜在的な羨望感を抱いているんじゃないだろうかと思う。
そしてその分野を「理解してみたい」という欲求が少なからずあって,難しい定理を極力省いて素人にも解りやすく 書かれている本書が「解った気にさせてくれる」ことが,そのある種の欲求を満たしてくれることが(つまり疑似体験に近い), 読後の満足感につながるんじゃなかろうか。

少なくとも己はそのうちの一人で,単に証明完了までの経過だけでなく,フェルマーの最終定理を証明しようと半生を費やした 数学者たちの熱意や,志半ばに終わった者たちの挫折感など,無機質な方程式から人間の生き様が見えてくる 物語に感動して,意外にも,なんと,泣けてしまった‥‥。

訳者あとがきを読んでると,訳者も何度も泣いたらしいので,あ己だけじゃないんだヨカッタと思ったけど。はは。

ともかく本書はホントに面白いです。
もうすでに3度ほど読み返したけど,たぶん今後も読むでしょう。
やはり最後は「人間」なんだな,と思う。






【ネジ式ザゼツキー】
|島田荘司 | 講談社新書 | 2003|


ミステリにおける面白さ,解決のカタルシスというのは,「こんなの解決(説明)できるのか」というくらいの ふろしきの広げ具合と,それを理路整然と畳んで見せるあざやかさとのギャップに比例するところがあるけども, 島田荘司はまだそのバランスを,危ういところで保っている一人だと,己は信じている。

本作も,一見ありえなさそうな設定でありながら,持ち前の「物語力」で作中にぐいぐい 引き込まれるので,解決も楽しめるというパターンでした。
ま,御手洗モノが好きと言ってしまえばそれまでなんですけどね‥‥。
なんかマニアの腐女子と同視されそうなので公言したくないけど‥。






【赤毛の男の妻】
|ビル・S・バリンジャー | 創元推理文庫 | 1961(1956)|


古典作品になると,「ネタバレになるのでタイトルは言えないが,こういうトリック(あるいはオチ)の作品がある」という 情報だけを先に知っていて,元作品を後で読む,ということがたまにあります。

この作品の場合がまさにそうで,最後の1ページを読んだときに『うわぁ〜この作品だったか!』と 軽い衝撃でした。
途中の話はあんまり覚えてないんだけどね‥‥。
たまに,こういうことがある。






【葉桜の季節に君を想うということ】
|歌野晶午 | 文春文庫 | 2007(2003)|


いやーー久々の「やられた」。

タイトルやストーリー紹介で敬遠して未読のまま終わらずホントに良かったと思う。
やっぱり歌野晶午は本格畑の人なんだ,という,妙な安堵感も感じた作品でした。

本作を読んだ知人は『こんなん,反則じゃわ!』と言ってましたが,いやほんとそうかもしれん(笑い)。






【片眼の猿】
|道尾秀介 | 新潮社 | 2007|


産業スパイの仕事をしていた私立探偵が,とんでもない場面を目撃して‥‥ってな話。

本作で感じたのは,犯罪に関するストーリーと,最初は読者に隠してある 事実(設定)とが,あまりリンクしていないような気がして,ちょっと とってつけた感があるかなってことです。

全体としては,面白くないことは無いんだけど,ちょっとパンチが足りなかったかなと。
まぁでも,とんでもない設定の暴露っていう点では歌野晶午に通ずるものがあるかなと 思うし,今後も続作を読んで行きたいですな。






【ブードゥー・チャイルド】
|歌野晶午 | 角川文庫 | 2001(1998)|


前世の記憶があり,しかも自分は黒人でチャーリーと呼ばれていた‥‥という少年の 謎を追う!的な作品。

たぶん,これが書かれた1998年に読んでいたらネタには気づかなかっただろうけど, メディアでもいろいろ取り上げられていたので,途中で気づきました。
ただ歌野ならではのアクロバティックなアレンジは加えられてましたが。

歌野晶午という作家は,初期の「〜家の殺人」シリーズとはうって変わって, 最近は『おいおいそりゃムチャだろ』というネタを題材にしながら 絶妙なバランスで面白い作品に仕上げるという手腕に長けてきたように思う。

これからも楽しみな作家であります。






【エンガッツィオ司令塔】
|筒井康隆 | 文春文庫 | 2003|


断筆解除後初の短編集。

もう,とにかく,この短編集は表題作「エンガッツィオ司令塔」に尽きると思うので, 読み始めて『ワッなんだこれは』と文庫本を思わず投げ出すか,ゲラゲラ笑いながら 何度も読み返すかのどちらかでしょう。

一説によると同じ題材を扱ったほかの短編を書く際,筒井は自らリアリティを感じ取るため, ○○をXXに△△して□□してみたというが‥‥真相は判らないものの筒井ならやりかねんと思わせる エネルギーが作品から感じられて思わず脱糞‥おっと,感心します。





【キッド・ピストルズの妄想】
|山口雅也 | 創元推理文庫 | 2000(1993)|


パンクな刑事がパラレル英国で活躍する「キッド・ピストルズ」シリーズの第3弾。

本作には「神なき塔」「ノアの最後の航海」「永劫の庭」の中篇3作が収録されてますが, どれもかなり読み応えがあって,山口雅也の本格魂を堪能できる作品でした。

山口雅也といえばやっぱり「ミステリーズ」の強烈な印象が強くて,昔の「日本殺人事件」とかこの キッドシリーズも面白いけど,なかなか結婚できない女史がお見合いで聞いた謎を解決する 「お見合いと推理シリーズ」だけはどうしても手が出ない‥‥。
なんか,他の作家でも,殺人や誘拐だけがミステリじゃないっ日常のちょっとした出来事も十分 ミステリなんだっというノリで書かれてる日常ミステリみたいなはどうしてもやっぱり パンチが無いというか,どんなに論理がしっかりしていても引き込まれるものが無くて, やっぱり殺人なんだなと改めて思う次第です。






【まほろ市の殺人 秋】
|麻耶雄嵩 | 祥伝社文庫 | 2002|


架空の都市「まほろ市」を舞台に起こる殺人事件を,4人の作家がそれぞれ描く 連作(?)シリーズの麻耶雄嵩版。

書き下ろし文庫とはいっても,ページ数が128と少ない上に,1ページあたりの 文字数が少ないので,実質は短編という感じです。
ネタも,いつもの手ではあるものの,麻耶雄嵩らしい仕掛けと,独特の後味を 残していて,なかなかでした。

それより次の長編が早く読みたいのですが‥‥どうもこの作家は兼業なんじゃないかと 言われていて,すごく寡作なのがもどかしいところです。
まぁ,一作一作を作りこんでもらったほうが,読み手としては嬉しいから しょうがないか‥‥幸いなことに読むものは他にもたくさんあるし。






【巨人たちの星】
|J・P・ホーガン | 創元SF文庫 | 1983(1981)|


SFの大家ホーガンのデビュー作にして出世作と言われる「星を継ぐもの」から続く, 4部作の3作目。
(この作品終了時点では3部作として完結だったらしいが,後に4作目が出版された。)

このシリーズ,もともと「星を〜」がネットの評で「最後まで読んでよかった本」として名前が挙がっていたので 読んでみたところ,前半の科学知識羅列や人物・状況を把握するまでのダルさに反して, SF的な発想を論理の糸でつなぎ合わせる見事なラストのカタルシスが 素晴らしかったので,いちおう3部作は読んでみようと思ったのが始まりでした。

そこから2作目「ガニメデの優しい巨人」ときて,この「巨人たちの星」。
これも,前半は政治的な話が続くためややダルいものの,後半になると論理的解決もさることながら サスペンス風味が増して息をもつかせぬ展開に引き込まれていきます。

そしてラストの,スタートレックを髣髴とさせるアクロバット。
いやーーお見事。どっしり楽しめるSFに満足です。

次は4部作目の「内なる宇宙」か,他の単発SFモノか。






【死者は黄泉が得る】
|西澤保彦 | 講談社新書 | 1997|


ん〜む,これぞ西澤マジックの醍醐味。
読了時のカタルシスの大小は作品中のミスリードの成否に大きく左右されると思うけど, そこんとこが非常にうまくできている作品でした。

西澤保彦の作品は,最近,超能力巫女みたいのがでてくるカンオミシリーズが主流みたいなので しばらく読んでいなかったのだけど,旧作から読んでみると面白かった。
ちょっと,最近のも読んでみようかなぁ‥‥その前に「依存」や「収穫祭」も 読みたいんだけど,本が分厚くて尻込みしてしまうのでした。







[TOP] [BACK]