>『くわんや考』
〜今脚光を浴びる雄町の豚骨ラーメン〜

だぁふぉん 

1.はじめに

 知る人ぞ知る『高島ラーメン』のある高島の高架を右手に見ながら東に向かい、高島駅を通り過ぎてしばらく進むと、左手にエビめしを食べさせる喫茶店やカメラ屋、焼き肉屋などと並んで一軒のラーメン屋がある。

 『くわんやEvolution』。

 最近は岡山のタウン情報誌『月刊タウン情報おかやま』にも紹介され、同誌の300号記念を祝した「ラーメン一杯300円クーポン」の企画に参加し、また同時に読者の選ぶ新興ラーメン店のトップ3にランクインするなど、最近脚光を浴びているラーメン屋なのである。
 ところで、皆さんはこの『くわんや』が実は何回か店主が替わってきたことをご存じだろうか?
 この論文では、私が1998年に岡山に来てから今日に至るまでの『くわんや』の歴史を述べていく。

 私は現在の『くわんやEvolution』のことを個人的に「くわんや3」と呼んでいる。因みに「くわんやスリー」と読む。3ということは勿論1、2が存在していた。
 そこで、ここでは『くわんや1』から『くわんや3』に至るまでを、その味などについて述べていきたい。
 なお、味や麺の固さなどについては個人的な好みが反映されていると思うので、万人の『くわんや』に対する感想とは必ずしも一致することはないであろう事を最初に断っておく。
 また、ここまでは極めて論文調の文章であるが、本文では所々で文章が支離滅裂なものになる箇所がでてくるが、これは飽くまで私の文章の癖なので、優しく見守って欲しい。

2.『くわんや1(ワン)』〜濃厚な豚骨ラーメンとの出会い〜

 岡山に来てからしばらくは私の住む場所(岡山県岡山市西川原)から東の方面へドライブがてらうまいラーメン屋を探していた。私の故郷が山口県で、九州にほど近いこともあり、「ラーメンといえば豚骨」という考えを持っている私であるが、東岡山を更に東へ向かっているとある『白竜』というラーメン屋くらいしか見つけることができないでいた。ここのラーメンは個人的にコクが足らず、今ひとつ満足ができるものではなかった。
 そんななか見つけた豚骨ラーメンの店が『くわんや』だった。
 のれんをくぐると、ひげを生やしたゴツい感じの主人と恐らくその妻とおぼしき恰幅の良い女性が厨房にいた。
 メニューを見ると、「こってり」と「あっさり」がある。ここは勿論「こってり」を選択した。
 ちょっと長めの時間が過ぎた後出てきたラーメンは「これぞトンコツである!」という様な、白濁したスープである。まずはチャーシューをどんぶりの底にぐいっと押しやり、ラーメン全体を大きくざっとかき混ぜる。これは伊丹十三の『たんぽぽ』を観て以来、ラーメンを食べるときに最初にまずやる動作である。
 すると、そのスープは非常にどろどろとしたいかにも濃厚そうなスープであった。いわば「ドロみ」スープといえるのではなかろうか。 まずは麺をひとすすりする。
 「ん?」
 やや茹ですぎなのか、麺は柔らかく麺が「どろっ」とひとかたまりになっている。お互いがぬるぬるになってひっついているような感じである。これは少々イタダケナイ。後にこの『くわんや1』には何回と言わず通うことになるが、いくら固めに注文しても、ラーメンが出てきた時はやや固めの感じなのだが食べ終わる頃には「クッタリ」というか「ドロリ」としたやや伸び気味の感のあるものだった。
 スープはその見た目の通り、「こってり」にふさわしい強烈すぎるというほどの濃厚さをもって私ののどを通りすぎた。「どろどろ」とした濃厚スープはひと飲みした時点で「あぁ・・・僕はここのラーメンは好きだぁ!通い詰めることになるだろうなぁ!」という予感がした。事実その通りになったのであるが。
 チャーシューは恐らくバラ肉であろうが、醤油で煮込んだような茶色ではなく、白色であった。このチャーシューは非常に味がよくしみこんでおり、またその歯触りたるや、まさに「とろける」という表現がぴったりな誠にヨロシイチャーシューであった。
 卓上には辛子高菜、ごま、紅ショウガという、豚骨ラーメンには欠かせない薬味が置かれており、それらは好きなだけ入れることができる。ここの辛子高菜は非常に辛いが、しかし入れすぎない限りはその極濃なスープは決してその主張を失うことがなく、紅ショウガやごまなども非常にここのスープのアクセントとしてうまくマッチしていた。
 スープを全部飲み干してしまうと、どんぶりの底には灰色っぽいつぶつぶが残っていた。恐らくコレは豚骨の髄や骨のかけらなのではないかと思うのだが、私の会社の同僚の中にはこのつぶつぶが気持ち悪いという人もいた。
 因みに、「あっさり」は本当にあっさりしていて、イマイチもの足りなったので、一度食べたっきりで私は「こってり命である!」の人と化していった。

 『くわんや1』は、麺にやや難があったが、非常に好きなラーメンであり、この後幾度となく通うことになるのであった。

3.『くわんや2(ツー)』〜やがて訪れた衰退〜

 ある時期、『くわんや1』の恰幅の良い女性の姿が見えなくなった。程なくして、店の表に「後継者募集」という張り紙が張り出された。勝手な思いこみであるが、かなりの人手があり、激務のためにその女性が倒れられたのかなぁなどと思い、いったん店を他の人に任せるのかなぁと考えたりした。しかし、しばらくは後継者が見つからないのか普段と変わらないいつもの『くわんや』であった。 しかし、いつからかどうも後継者とおぼしきおじさんがラーメンを作るようになっていた。ひげの主人は厨房でおじさんの隣に立っていたり、カウンターに座って新聞などを読んだりしていた。しばらくはそういう状態が続いていた。ラーメンはやや麺が固くなった気がしたが、それ以外はあまり変わらなかった。
 そして、そのおじさんが完全に独り立ちするときがやってきた。
 そのおじさんは随分年輩の方で、なんとなく印象的にはどこにでもいる普通のおじさんであった。しかし、なんとなく「和食店の料理人だったのかなぁ・・・」という感じもしていた。
 この店主に代わってからが、私の言う『くわんや2』である。
 メニュー的には最初は変動はなかった。
 しかし、どうも「こってり」を頼んでも以前のような「ど根性ドロみスープ」の陰が薄まっていき、なんだかあっさりした感じになってしまっていた。これはちょっと頂けないなぁと思った。しかし、注文からラーメンが出てくるまでの時間が大幅に短縮され、また麺も『1』の頃に較べるとちゃんと固く茹でられ、その点は救いと言えた。
 そして、チャーシューが変わった。『1』の頃の「とろけチャーシュー」はしばらくは守られていたが、どんどん固い物に変わっていった。肉の部位自体がどうも変わってしまったのではないかと思われた。恐らく肩肉か腕肉であろう。煮込み具合もちょっとアサイのか、いわば「ぽそぽそかたかたチャーシュー」に変わっていった。しかし時期によっては以前のような「とろけチャーシュー」が出てくることもあった。
 そしてメニューから唐揚げが消えた。その頃には常連となっていたので、おじさんに聞いたところ「わしはなぁ、あの即席ゆうか冷凍の唐揚げは好かんのです。だからメニューからなくしました」との事だった。しかし、サイドメニューが一つ消えたのはかなり個人的にイタかった。
 そしてランチがなくなった。『1』の頃はランチがあり、替え玉かご飯か選べるようになっていたのだが、そのランチ自体をなくしてしまった。
 そして、値段が一律値上げした。50円か100円ほどであったと記憶している。
 更に、ラーメンにゆずが入るようになった。
 このころになると客足は随分減り、いつ行っても閑古鳥が鳴いている状態が続いていた。

 そして、私の足も遠のいて暫くしてから、『くわんや』はいつ見ても電気の点いていない店となった。
 つまり事実上の閉店であった・・・

 因みに、『2』の主人はなじみの僕にメニューにない「大根と牛スジの煮込み」などの小料理を振る舞ってくれたりした。これだけはどんどん衰退の道をたどっている中で良い思い出となっている出来事だった。

4.『くわんや3(スリー)』〜そして現在・・・〜

 『くわんや2』が閉店してかなりたった頃、店の改装を行っているところを二三回目にした。
 「?新しい店になるのだろうか?」
 そして、その店がオープンした。
 『くわんやEvolution』。
 オープン記念として大々的に100円か300円か忘れたが、一杯を激安で振る舞っていたようで、当初は品切れが何度かあったため、結局『Evolution(以下3)』となってからは暫く行くことがなかった。
 オープンラッシュが終わった頃、『3』の前を通り過ぎた。客が一人も居ない。どうもオープンで一気にお客さんが来たようであったが、固定客を得る事はできないようだった。
 久しぶりに『くわんや』ののれんをくぐった。
 食べたラーメンは私を大いに失望させるものであった。
 麺は程良い固さに茹でられていたものの、スープがなんともコクのない、しかも『1』の頃とは較べるべくもないあっさりとしたスープ。正直言って、好みのラーメンからはほど遠いものであった。
 そして、それ以来何ヶ月か『くわんや』ののれんをくぐることはなかった。
 いつしか私は同じく雄町にある『花子』という豚骨ラーメン屋に入り浸るようになっていた。ここは水曜日が定休日なのだが、いつであったかついうっかりして水曜日に赴いた。当然定休日。仕方なくもと来た道を戻っていたが、とくにコレという理由もないがふらぁっと『3』に行った。心のドコカで「ひょっとしたら昔の美味しくなっているかも知れない」。そういう淡い希望を抱きつつ、久しぶりの『くわんや』ののれんをくぐった。
 お客は僕しか居なかった。
 内心がっかりしたが、復活していたランチを注文。「あっさり」と「こってり」は選択できなくなっていた。
 出てきたラーメンを一口すすった。
 「あれ?」
うまいではないか!こってり感は『1』の頃に較べるとそうでもないが、しかし「コッテリが好きですたい!」という人向けのスープである。 麺も好みの「バリカタ」にゆであげられている。しかし、替え玉をバリカタで頼んだときは、少々「ポソポソ」感が強い気もするが、それでも『1』の頃に較べると格段の進歩である。
 チャーシューは『1、2』の頃からうってかわって、茶色の醤油色のものであるが、最も変わっている点といえば、チャーシューが細切れになったことではないだろうか。固い物や脂身の「とろぉん」としたものなど、食感が色々楽しめる。しかし、どうもチャーシューはラーメン単品は普通のチャーシューのようであった。しかし『2』の頃に較べるとポソポソ感はなくなり、味も濃厚で食べ応えのあるチャーシューであった。
 ランチは頼んでから出てくるまでが時間がかかるが、ラーメン単品だと出てくるのはとても早い。
 トータルで見てみると、非常にバランスの良いラーメン屋となったのではないだろうか。

 現在は「替え玉選手権」やランチメニューの充実、替え玉券の導入、そして先に述べた『月刊タウン情報おかやま』とのタイアップ企画など、意欲的な展開を経て、多くの支持を得るラーメン屋へと成長を続けているのである。

 『くわんやEvolution』の名の通り、これからも『くわんや3』は進歩を続けていくだろう・・・

5.おわりに〜

 長くなったが、、『くわんや』はかなり好きなラーメン屋である。
 昔からずっと行き続けているラーメン屋であり、またその歴史を身と舌をもって見守ってきたため、非常に親近感を覚えるラーメン屋である。
 個人的には雄町近辺は『くわんや』は『花子』という二大(個人的に)豚骨ラーメン屋が集まる『豚骨ストリート』と名付け、なお一層の発展を心より願うところである。

平成14年3月22日