Ａ市からＦ市へ南下する国道をＢ町で左に曲がり、山に向かって走る。

途中の交差点でもう一度左に曲がり、田園の中を走る。

丘の間をすこし登ったところに、農業用の小さなダムがあり、道路を挟んだ

反対側に、畑作風景には場違いと思われる、瀟洒な公園がある。

　この公園には周遊できるように、アスファルト舗装された小道があり、

公園の右奥、東屋の前を通るところに一個の小石が、この小道のアスファルトに

埋まっている。

　　この地方にしては暑く、風の強い夏のある日、ひとりのライダーが

ここで昼飯にしようと、駅前で買ったパンとジュースをもってこの公園の東屋にやってきた。

そして、昼飯と少しの昼寝の間に　バイクのスタンドがアスファルトにめり込まないようにと、下に小石を置いたのである。

スタンドまではめり込まなかったが、小石はライダーが休憩している間に、すっかりアスファルトに埋まってしまった・・・・。

　それから数年後、ふたたびこの地を訪れる機会があったライダーは小さな乗用車に乗っていた。

あの日、この公園を訪れた彼のバンダナを　はためかせていた風に、大きく揺れていた木は、ずいぶんたくましく

成長していた。

　彼はこの公園のあの場所に埋まっている、小石のことを憶えていた。

　ゆっくりとした足取りで、東屋に近づいていった彼は　そこに、あの日と同じ様に埋まっている小石を見つけた。

数年の間に、すっかり赤茶けてはいたが、まぎれもなく　あの時の石であった。

　そっと指で触れてみる・・・・。

　あの日のこと、旅の途中のこと、旅から帰ってからのこと、次々と記憶がよみがえる。

小石の中には、当時の彼の想いが、息づいていた。

　しばらくの間、公園からの風景を懐かしそうに眺めていた彼は、

車にもどり、再び疾走（はしり）始めた・・・・。

　この話は、おそらくこんなメディアがなければ、世に出る

ことのない、彼と小石だけしか知ることのない、小さな話である・・・。