金工の話

今までいろんなところで教えてきたことを書いてみます。
             キリンスについて

私は今までキリンスをずっと使って来ていますが、いろんな金工の本にキリンスについて硝酸と硫酸の混合液や塩酸や硫酸の混合液などが書かれているのを見ます。私の理解ではキリンスは磨くことのできない所を磨くための科学研磨液と理解していました。そのため文字も「希燐酢」のように思っています。これは燐酸の研磨効果を利用したもので銅キリンスや鉄キリンスなどあり、どれも燐酸をベースに酢酸、硝酸などを混合した物を使っています。単に酸化皮膜を取るためなら洗い酸として硫酸や塩酸、硝酸などの混合酸を使います。私の使っているキリンスは隅々まで光り、便利なものですが、劣化が速く何にでも使うのはもったいないと思います。
鑢(ヤスリ)について
ヤスリは金工にとって現在はどうしても欠かすことのできないものになっています。昔は鏨(たがね)で切り、生下げ(きさげ)で仕上げ箆で磨いたものと思われます。ヤスリが造られたのは鋸の目立てのためと思います。
ヤスリはご存じのように焼き入れに味噌を使うのがいいといわれています。これ市販のヤスリのそこそこのものを見ると壺のとトレードマークを使っています。そのマークは柄の付け根のあたりに壺のしるしが入ってその中に会社の独自の文字が入っています。これは自分の所では味噌焼き入れをしているので良品だと言うしるしです。この味噌はもちろん食用の味噌ですが、できるだけ塩分と大豆成分がなじんでいる3年味噌がよいと聞いています。それにさらに塩と硝石を加えた鑢味噌を造り、鑢材(工具鋼SK−1)を焼き鈍しをして脱炭層を取ったものに目切り(削る金属によって様々な目)をした物にこの味噌を溶いて塗り、それごと焼いたものを一気に水につけると言うものです。これにより水につけた鑢が泡で序冷されることなく一気に冷え非常に固い焼きが入ると共に目切りによって目先に入ったクラックが生きて使っているうち剥離して常に新の刃が出てくると言うものです。ただ固いだけでは先がちびた時点で切れなくなりますが、これだ古くなったいわゆる「あがった鑢」でもいつまでもよく切れるということです
鑢はできたてのものより数年寝かしたものの方が堅さが出来てよいし、新品より、1、2度目立てをした物の方が脱炭層がさらに取れ、よく切れます。以前には焼き入れの時にたてにひびの入った鑢がいい焼き入れが出来ていて非常によく切れると言うことで競ってさがしたものでした。