吸引戦隊カービィファイブ外伝
キービィのスパイス紀行

 


ある、雲一つない青空の日のことでした。

 

「はぁー・・・」

川岸にキービィが座り込んでいました。珍しく、ブルー入ってます。

「キービィ、どーしたのさ。」

「・・・」

キービィは、ナメクジがイライラするような速度でカービィの方を向きました。

「・・・カビちゃんかぁ・・・」

「・・・」

話しかけるどころか、近寄りがたい雰囲気が、元栓を閉め忘れたガスのごとくジリジリとやってきます。カービィはつい黙ってしまいました。

「あー、きびりん、こーんなとこにいたー。」

「きびくん、1時のおやつのわらびもちができたよ。食べ終わったら、みんなで2時のおやつのクッキーを作ろ。」

「ソーちゃん、くさもっちゃん、今そーゆー気分じゃないんだなぁ・・・ボク。」

「ポポくん、ムーくん何かあったのぉ?」

「キービィ、何があったのか教えてよぅ。」

「・・・みんな・・・今日のお昼ご飯どーだった?」

「え?今日のお昼?カレーうどんだったけど・・・。」

「・・・おいしかった?」

「えっ・・・そ、そ、そりゃあ・・・うん、おいしかったよ。」

「・・・ウソだぁ。何でそんな、すでに中身を出し切ったレトルトカレーのパックをさらにしぼってルーを出す様に言うのさぁ・・・おいしくなかったんだ・・・」

「いや、おいしくなかったなんてことはないよ!ただね・・・こーカレーを毎日食べてるとさ、飽きたかなーって・・・」

「みんなを飽きさせるよーな物、ホントはおいしくないんだぁ・・・ホントにおいしかったら、毎日食べても飽きないもん・・・」

両目からぼろぼろと涙がこぼれます。カービィ達は爆発寸前の時限爆弾を目の前に置かれた表情になりました。

「あ・・・あのね、きびりん・・・」

「ふえええぇぇぇ〜ん・・・」

外部からの刺激がまずかったのか、キービィは泣き出してしまいました。カービィ達は、「目の前の爆弾」の表情から、「爆弾の解体作業中、起爆用の線を切ってしまった」表情になりました。

「キービィ・・・そ・・・そんなに味が気になるんならさ、もっともっといろんなスパイスを集めて作ってみたら?」

ぴたっと泣きやみます。

「えっ、スパイス探しのために遠出していいの?カービィファイブのお仕事をぜーんぶ忘れて?やった、やった!さっそく家に帰ってリュックとか用意しよー。」

キービィは、ジェットをコピーしても追いつけない様な速さで家へと走ります。カービィ達はしばらく呆然としていました。そして、思い出した様にキービィの後を追いかけました。

 

「クローブとターメリック、カルダモン、クミン、コリアンダー、シナモン、ナツメグ、唐辛子、ホワイトペッパー、ブラックペッパー、サンショウ、ショウガがちょっと減ってるなぁ・・・これもメモに書こ。うーん・・・グリーンペッパーとかカイエンヌペッパー、鷹の爪、ブラックソルトが欲しいなー。他にも、アサフォティダ、シパララセ、オウドランパ、ケローマー、グザ・エル・スナブ・・・こんなすてきな香辛料と会えるかと思うとドキドキしちゃう・・・」

欲しい香辛料をメモに書いてるようですが、悪魔召還の呪文の様になってます。

「キービィ、ボクもついてくー。一人じゃ寂しいでしょ?」

「ありがと、カビちゃん。」

「きびくん、ボクも。おはぎを作る小豆が足りないんだ。行く途中で仕入れたいな。」

「いいよー。」

「きびりんー。ボク達もー。」

「私もー。」

「え?」

いつの間にか、アドが後ろに立っていました。

「何か面白そー・・・私も行きたいなー。」

「アドちゃんがついてきて、何の役にたつのさ。」

ぷちっ・・・と、どこかで髪の毛をちぎる様な音がしました。

「今しゃべったのは誰よーっ!」

「ソーちゃんとうめぼっちゃん。」

「えーっ!?」

2人とも、きれいに「えーっ!?」がハモります。アドがその2人をにらみつけます。

「さ、カビちゃん、くさもっちゃん。あの2人がアドちゃんにしめられてるうちに行くよ。5、6人でぞろぞろ行きたくないでしょ。」

「こ・・・これは、ひどいんじゃないかな・・・」

「カレーのためなら、どんな犠牲も怖くはないさ。」

「でも、犠牲になってるのは、そびくんとめぼくんであって、きびくんじゃないよ。」

後ろから、どたどたという騒がしい音と、悲鳴の二重唱が聞こえてきました。

 

「ヨーグルトヤードの向こうの山の頂上に、カレーのスパイスがほぼ全部そろってるって情報をインターネットで仕入れてきたんだ。」

「ぅわーっ、何、その情報?ウソくさー・・・」

「いいじゃないかぁ!一応行ってみるの!たとえば、柿をスーパーでお金払って買って食べるよりも、そこらへんの山で採って食べる方がお得でしょ!スパイス全部買ってたらお金なくなっちゃう。」

「どんな犠牲も怖くないんじゃないの?」

「その話とこの話は、カレーに福神漬けを添えるか、らっきょを添えるかぐらい違うの。」

「かびくん、よくわかんないよねぇ・・・」

「うん。」

ごちゃごちゃとしゃべりながら進んでいきます。するといきなり、近くの草むらから誰かが飛び出してきました。

「きゃっ、なになにぃ?」

「カービィ、勝負だ!」

「あーっ、メタナイトぉ!?何でこんな時に出てくるのさぁ!ばかばかばかぁ!」

カービィは両手を振りながらメタナイトに近づいていきます。

「とにかく、勝負だ!今こそ決着をつけてやる!」

「今忙しいからさ、後にしてよ。あ、そうだ。後でボクの家に来て。キービィがおいしいカレーを作ってくれるから。いっしょにカレーを食べながら、ゆっくり話でもしようじゃないか。あ、それとね、ワドルディが欲しがってた限定発売のスマブラシール、はいこれ。渡しといてね。」

「お、悪いな。」

「じゃーねー。カレー食べに来てねー。」

カービィは手を振って、走りながら去っていきました。

「・・・っ!おい、カービィ・・・カービィ!」

すでにいませんでした。

 

「カビちゃん、話そらすのうまくなったねぇ。」

「ジョーに教えてもらったの。」

「かびくん、きびくん。着いたよー。」

かなり高い山です。

「さー、登るぞぉ。」

3人とも息を切らしながら登ります。5合目まで登ったところで休憩しました。麦茶を飲んでる途中、くさもっちが、はっと気づいたように言いました。

「・・・飛べばよかったんじゃない?」

カービィとキービィは、水筒のふたを落としました。カラカラと音がします。しばらく沈黙が続いた後、水筒をのろのろとリュックにしまい、出発しました。もちろん、飛んで。

 

10分後、山の頂上に着きました。キービィは、何年も延期され、ようやく発売されたソフトが棚に置いてあるのを発見したような表情で、ゆっくり前へ歩き出しました。

「シパララセ・・・オウドランパ・・・アサフォティダ・・・ケローマー・・・グザ・エル・スナブ・・・言い切れないほどある・・・しあわせぇぇぇ・・・」

うれし泣きをしています。

「しぱららせってこの木?実とかなってないよ。」

「違うよ、くさもっちゃん。この木の皮を使うんだよ。」

「げー・・・木の皮?ホントにカレーになるの?」

「まかせてよ。カビちゃんもスパイス集めるの手伝ってぇ。」

キービィがメモったスパイスを全部集めると、リュックはパンパンになりました。

「うーん・・・重くて飛べないなぁ・・・ま、下りだし。歩いて帰ろ。」

山のふもとまでおりてきた時、がさがさと音をたてながら何かが飛び出してきました。

「何ぃ?またメタナイトぉ?」

ヘビです。全長2メートルぐらいあります。

「いやーっ!?」

3人とも悲鳴をあげながら、草むらに隠れました。

「あとちょっとで山からおりれたのにぃ・・・ここまで来て、ヘビなんかに足止めされたら、カレーの神様に申し訳がたたない・・・」

「何?カレーの神様って。」

「くさもっちゃん、行け。」

「えっ、ボ・・・ボク?やだよ、怖いよ。」

「いってらっしゃーい!」

「きゃーっ!?」

キービィはくさもっちをヘビの前に突き飛ばしました。

「いったー・・・きびくん、ひどーい。・・・あ。え・・・えーと・・・ヘビさん、こんにちは。ボクはくさもっち。俳句が好きなんだ。ちょっと詠んでみようか。『押し出され ヘビと対面 くさもっち』・・・あっ、季語がなかったねー・・・やっだー、何?その目。お酒が好きな辛党のヘビさんには、甘ーいボクはお口に合わないんじゃない?もしかして、甘党?あはははは・・・・・・ふー・・・・・・・・・きゃーっ!」

くさもっちはいきなり悲鳴をあげると、ふもとへ向かって逃げ出しました。ヘビがその後を追いかけます。

「よーし、くさもっちゃん、よくやった。」

「そんなこと言ってないで、早く助けないと・・・」

「大丈夫だよ。くさもっちゃんの能力はプラズマ。ほーら、見てよ。」

キービィがふもとの方向を指しました。ばちばちと放電が起こってます。キービィは、ゆっくりと山を下り始めました。

 

「きびくんたら、ひどいんだよ。ボクをどーんて突き飛ばしたんだから。帰りに小豆をおごってくれたから許したけど・・・」

「ボク達なんか、アドちゃんにしめられたんだよ。」

「私は留守番チームに入れられたのよ。」

すごい空気が漂ってます。カービィは隣に座っているナックルジョーに話しかけました。

「・・・ジョーは、カレー嫌いじゃなかったの?」

「言うほど嫌いじゃない。その日の気分だな。」

「みーんなー。出来たよぅ。」

キービィが台所から大きななべを抱えてきます。そして、中のカレーをみんなの皿につぎました。

「・・・何?この色・・・」

「真っ黒だね・・・」

「イカスミみたい・・・キービィ、これ、ホントにカレー?」

「ルーが茶色なのは、素人のカレーなのさ。これが、本物のカレーだよ。さ、食べてみてよ。」

「ジョー・・・大丈夫だと思う?」

「てめーの普段の生き方を見るに、今死んでも悔いはねーだろ。」

「やめてよ、そんな言い方・・・」

キービィとナックルジョー以外、おそるおそると口に運びます。

「・・・むぅ?」

「・・・すごーい!無茶苦茶おいし・・・・・・・・・からーっ!?」

コップの水をガブガブと飲みます。

「ぅわーっ、おさまんないーっ!」

「辛かったら、このホワイトアスパラガスをかじってね。・・・そんなに辛かった?」

アドがアスパラをかじりながら答えます。

「辛いなんてもんじゃないわよ!これ食べれたら、一味唐辛子1ビンかけたワサビを一気に食べれるわよ!こんなに辛いの平気で食べれるのはキーくんぐらい・・・ナッシー?」

ナックルジョーも平気で食べてます。

「ジョー、おいしい?」

「いつもよりは、ましなんじゃねーか?」

すると突然、ばたんと大きな音をたてて、ドアが開きました。

「カービィ、今度こそ勝負だ!」

「きゃ♪メタナイト来てくれたんだね。一口どうぞ。」

「何だ?やけに黒いカレーだな・・・・・・・・・か・・・辛すぎないか?」

「はい、アスパラ。あ、いいこと思いついちゃった。いつも剣の勝負じゃつまんないから、『キービィのカレー早食い勝負』にしよ!」

「どー考えても、お前に分があるでは・・・」

「はーい!カビちゃんVSメタナイト!『ボクのカレー早食い勝負』!Ready Eat!」

カーンとスプーンでなべをたたきます。

「ボク、かびくんが勝つのに500円賭けるー。」

「いやいや、もちりん。わかんないよー。」

カービィの家の窓から、月が見え始めました。