Nuss法から翻転術へ 
2000年の夏 画期的だと言われるNuss法に出会い手術を受けたときにはこれがベストな方法だと思っていた これできれいな胸にしてあげられる… 
親として凹んでいる胸を見るたびに言いようのない申し訳なさを感じていた私はそう思った
これで堂々とプールにも海にも体育の着替えも出来るようになるんだ…
迷うこともなく手術を承諾し 術後には本当に見違えるような胸になっていた
その胸を見て 医学の進歩ってなんてすごいんだ・・と思った
3歳の時 小児科の先生に勧められて小児外科を受診したときにはこの術法はまだ知られていなかった
説明を受けた術法は 胸を大きく開ける 出血もある 手術時間も長い…といろいろなリスクを持つ『翻転術』だった
診察をして下さった先生は一連の説明をされたあと『とても大きな手術です… 私からはお勧めできませんがあとはご家族で決めて下さい』と決断を私たち家族に渡された

当時3歳だったまあちゃんは体力もなく手術に耐えられるのかとても不安になった私たちはその時点で手術をあきらめた
それ以来 漏斗胸の事はあまり考えないことにしていた
『そんな大きな手術をさせるのなら このままでいい…』そう決断した

その後数年たち 我が家にもPCというものがお目見えした
そのとき ずっと忘れていた『漏斗胸』という文字を入力 検索してみた
出てくるページはお医者様が書かれたむずかしい文章だけだった
ネットをつかっても情報の少ない病気なんだ…と思ったことをおぼえている

その後また数年たち まあちゃんが9歳の春 掛かり付けの小児科の先生から漏斗胸に新しい術法が出来たというお話を伺い専門機関を受診した
即その日に手術を決め手術日もきまる…という早い展開の裏には『画期的な リスクの少ない手術』という説明を受けたからだと思う
2000年8月に手術を受け その後しばらくは順調だった胸の形に変化が見えてきたのは術後3ヶ月くらい経ってから…
バーの当たっている部分が盛り上がってきた… そして日を追うごとにますますひどくなってくる突起の為にバーを固定していたワイヤーが切れてしまい バーの保留期間1年間で抜去術を受けバーを抜いた

しかしバー抜いた後も突起は下がらない… きっと盛り上がった形で形成されてしまったのだろう… このままの状態では突起部を衝撃を受けることにより骨折する可能性も出てくる
1年間様子を見た後 突起部の形成術を受けることにした
突起部を切り取り胸骨の高さを整えるという方法で説明を受け承諾をした
が…いざ手術を初めてみると突起部には繊維状のものがぐるぐる巻きになっていて一部を切り取ることは困難と判断された先生は急遽手術法を変えられたらしく『翻転術』に変わっっていた 鳩胸の治療で『翻転術』が行われることはうっすらと聞いていたが こういう展開になるとは思っていなかった

術後のお話では 胸骨の突起部に小さな軟骨の固まりが出来ていたこと…これはNuss法でバーを反転させる時に胸骨の先端部分が折れてそのまま下へ付いてしまったものか またはなにかの原因で新たに出来た物かは不明だと言うこと…
そしてその固まりを切り離す事は強い癒着の為困難であったこと…
いざ『翻転術』のために円形に胸骨 肋骨を切り離そうとしたとき バーの入っていた部分の心臓と胸骨の間の膜に癒着がありはがれない為にそぎ取るようなかたちになりかなりの出血もあったが輸血は避けることが出来た…という話を聞く

あの時見送った『翻転術』…でも結局はその手術法を受けることになった…
我が子の症例は本当にまれなものかもしれない…
でも 現実としての出来事でもある
『翻転術』を見送った決断 『Nuss法』に出会い手術を受けたこと そしてまた『翻転術』と出会うことになった経過…
どの決断に面したときでも 悩んだり 光を見た気がして喜んだり また悩んだり…の繰り返しだった…
それでも その全ての決断はその時々の精一杯の決心だと思う
どの経過にも意味があったのだと思いたい…

漏斗胸について最近思うこと
この12年間を振り返って 今思っていることを書いてみたいと思います

よく成人された方から『手術したかった そうすれば人生が変わったかもしれない…』というお話を伺います
当然の思いだと思います
漏斗胸の為に苦労された事はたくさんあると思いますしこれからもその思いを感じて生活していくことに対する不安や不満もあると思います

いま 漏斗胸はここ数年Nuss法を取り入れられたこともあり 手術によって改善されるもの…という認識になってきていると思います
ネットなどで文献資料も情報も手に入る時代です
そして 程度により治療が必要な病気としての認識もされてきています
漏斗胸が体や精神に与える影響も広く知られてきています
ただ それが10年 20年前ならどうだったかと考えれば いま現在がどれほど進化しているか感じられると思います

その時代のどこに生まれて来たか… それが大きな分かれ目になっていると思います

もし 手術を受けることなく成人された方が 今の時代に生まれられていたら手術を一度は考えられるのではないでしょうか…
凹んでいる我が子の胸を見るたびに心を痛めるであろう 親としても考えると思います
時代の進化と言ってしまえば簡単ですが ある意味切ない時代の進化でもあると思います
それでも今なお漏斗胸に関する進化は続いています
Nuss法についても改善されている部分があると伺っています
この改善はこれからも生まれて来るであろう漏斗胸っ子たちの力になってくれるものであってほしいと思います

そして 手術法はNuss法だけではありません
『胸骨挙上術』は成人の方にも有効だとも伺っています
本当に治療されたいと思われるのであれば 相談にのってくださる先生はいらっしゃると思います
もう治療は必要ないと思われているのであれば 自信をもって毎日を送ってください…

そして 小さいお子さんを持っていらっしゃる漏斗胸っ子のお家の方は焦らずにお子さんの成長と胸の進行具合を観察して上げて下さい
たくさんの漏斗胸っ子の先輩たちが残してくれた経験と思いを大切にしてほしいと思います