イザークとディアッカは幼馴染らしい。両親が同じ職場なのだと聞いた。 そのせいか2人はよく一緒にいる。単に、見かけによらず結構世話好きなディアッカがイザークの癇癪を火種のうちに消そうとしているだけかもしれないが。 今日も今日とて、キレたイザーク必死に押さえ込んでなだめているディアッカの苦労は、端から見ても大変そうだ。 その原因、チェスに勝ったアスランは、止めればいいのに挑発的な台詞をかける。それがますますイザークの怒りに拍車をかける。 ループのような終わらない騒動。 あまり巻き込まれたくないミゲルは、それでも彼らがドア付近にいるため休憩室から出ることもできず、奥のテーブルに付いてぼんやり眺めていた。 いつものことだが。もう少し進歩は無いものだろうか? 最初は面白がって見物していた3人の関係にもだんだん飽きてきていた。 溜息をつくしかないミゲルの隣には、1人楽しそうに微笑む黄昏。 「皆、仲良しだな〜」 「…仲良しって言うのか?あれは」 自分が持つ【仲良し】の定義とは随分かけ離れているように見えるのだが、気のせいだろうか? 物事の受け止め方とういうのは個々によって異なるものだし、ラスティにとってはそうなのだろう。そのくらいに軽く考えることにする。 「だって嫌いな人間には目もくれないアスランとイザークが、あんなに相手にこだわっているじゃないか」 「…言われてみれば」 確かに。二人とも、本当に嫌いな相手は歯牙もかけない。構うのも面倒だと言わんばかりに徹底的に無視だ。 それを考えると、毎日のように相手を意識しあっているのは嫌悪感からではないと思える。たとえその【意識】の内容が競争心やライバル意識であっても。 ミゲルの脳裏に一つのことわざが浮かんだ。 【ケンカするほど仲が良い】 これがそうなのか。少し勉強になった。 しかし自分は体験したくないな…と小さく思ったことは飲み込む。 「ミゲルも混ざったら?」 「は? あの中にか? 冗談じゃねぇ」 唐突な提案に驚きつつも、速やかに却下する。 「楽しそうじゃないか。あの3人がいつもあんな感じだから、ミゲルはいつも余った俺といるだろ? それもつまらないんじゃないか?」 まったく邪気の無い表情で告げるラスティは、心底そう思っているのだろう。 ミゲルがどう感じているかも知らずに。 「…別に余っているわけじゃないと思うぞ」 「え? そうなのか?」 小首をかしげて上目使いに問いかける様は、まるで小動物のようで、一瞬息が止まった。 「あ…ああ」 (やばい…。自覚が一切無いのが問題か。いやでもそこが良いんだけど…) 動揺を隠そうとミゲルは慌てて顔をそらした。 目の前のケンカはまだ終わりが見えそうに無い。 「訓練もかったるいよな。いちいち面倒くさいっての」 部屋に入るなり、あてがわれたベッドに寝ころぶ。同時に指導官の怒鳴り声が浮かんで、そのまま突っ伏した。 肉体的疲労よりも精神的疲労のほうがはるかに勝っていた。 「あはは。けど仕方ないだろ。実戦で失敗したら命とりだし」 基本的に2人部屋であるため、当然のごとくミゲルの同室者も存在する。その彼はもっともなことを言って、自分のベッド上であぐらをかいていた。 「そうだけどな〜。こんなにうるさいとは思ってなかったからな」 ぶつぶつ不満を愚痴るミゲルに、ラスティはふと訪ねてみる。 「ミゲルはなんでこの組織に入ったわけ?」 「ん? なんか適性検査に受かっちまってさ。別に嫌でもなかったからOKしたんだけど、まさかこんなに大変とは…」 MSは誰でも操縦できるわけではなく、素質と才能が求められる。そのパイロットに選ばれたことは、そう悪い気分ではなかったのだ。 どっちにしろ、このまま侵略者にむざむざと殺される気はなかったのだし。 身体を起こして向かい合うと、ラスティは特に反応も示さずに納得したようだった。 「ふ〜ん」 「おまえはよく文句も言わないでこなせるよな。不満とか無いのかよ」 ラスティはいつも皆の愚痴の聞き役で、自分からそのような口をきいたことはない。愚痴に賛同はするので、それなりに思うことはあるのだろうが、それでも恐らく自分たちより不満は持って無さなそうだった。 するとラスティは少し目を伏せて呟いた。 「俺は…もう他に行く所無いから」 「あ、悪い!」 「いいよ。気にしないでくれ」 ラスティは侵略者による攻撃の折に家族を亡くしていることを忘れていた。 途端に後悔しても既に遅く。自分の浅はかさが嫌になるのはこんな時だ。 普段は天然キャラでも、訓練や戦闘になると彼はエースであるアスラン並みに冷静で優秀な戦士となる。最初はその二面性に意表をつかれたものだが、それが彼の怒りと悲しみの具現なのかもしれない。 ミゲルの家族は健在で、家もある。帰る場所がある。施設の外に出れば、ありふれた普通の生活がある。 【普通の生活】を失ったラスティの気持ちはわからない。彼もまた理解を求めてはいないだろうことは、接していればわかる。 ラスティが求めているものは、そんな生ぬるい半端な関係では無い。 だからミゲルも他の皆も普通に接している。彼に同情とか下手な気遣いは示さない。あのアスランでさえ、ラスティには拒否は示さないのだ。 「俺は恵まれていると思うよ? 確かに訓練は厳しいけど生き延びるためだし、衣食住は保障されているし、メンバーも気さくで善い人ばかりだし、ミゲルたちにも会えたし」 最後の台詞はこれまた極上の笑み付きで。ミゲルの心臓は跳ね上がる。 「そ、そうか。サンキュ」 「どうした?」 動揺を引き起こした本人は相変わらず何も気付かないままだ。 「おまえが素面で恥ずかしくなることを言うからだろうが!」 「そうかな? けど本心だし」 「いや、言って悪いわけじゃない。悪くはないから安心しろ」 (こいつのこういうところが困るんだよ。けど、そこが良いとも思うしな…。ああっもうどうしたらいいんだよ俺は〜!) とりあえず先日告白して、ラスティも答えてくれて、一応【コイビト】関係にあるはずなのに、全然進展が見られないのは自分がこうして慣れないせいだということに、ミゲル自身の考えは及ばない。そんな余裕さえ無いのだから当然か。 「ミゲル?」 「い、いや何でも。いや、おまえさ、誰にも言わないから、嫌な野郎のことまでも【善い人】でくくらなくていいぜ。ほら、例えばアスランとか。あいつ無口で無愛想で無表情でとっつきにくいだろ」 無理矢理ごまかして話題を他人にふる。咄嗟に浮かんだ人物を悪く言ってしまったが、彼にも非はあるのだから文句は言われまい、と必死で自分を正当化した。 ちなみにその時話題の人物は自室で幼馴染みの写真を眺めていた。 「くしゃみ…? また風邪でもひいたかな」 「そんなこと無いよ。アスランは感情表現が下手なだけ。表に出やすいイザークとは対照的だよな」 今回ミゲルの頭に浮かんだ格言は【同族嫌悪】。しかしそこまで彼らが似ているとは思えなかった。 悩んでいるとラスティは小さく笑った。そして何処か遠くを見るように、天井を見上げながら静かに語り出す。 「…アスランさ、【あの日】の直前まであの街に住んでたんだって」 「………え…?」 「たま〜にだけどね、自分のことを話してくれるんだ」 「へえ」 (あのアスランが、ねぇ) どんな顔で話しているのか知りたい気もするが、今はそれより内容に注目すべきだろう。 アスランの家族は自分と同じく健在のはずだが、故郷は【ドーム】の中ということか。 ならば、彼も何かを失っているのだろうか? 何かを置き去りにしてきたのだろうか? 「大切な思い出みたいだよ。取り返したいんだって」 【過去】というものは時として人の生きる糧となる。アスランにとっても例外ではなく。 「だから、アスランはただ必死なんだと思う。他に気を向ける余裕がないくらいに」 望めば穏やかで平和な生活を送れるというのに、有力者の子息として華やかな未来が待っているというのに、それらを捨ててでも取り返したいもの。 どれほど大切な思い出だったのか? それほどまでに焦がれる記憶とは何なのか? もし取り返せたとしても、時間は戻らない。思い出はそのままの形では残っていないだろう。時の流れとともに変化しているはず。賢明なアスランなら理解できているはずだ。 だが、それでもなお、全てを捨てる覚悟で彼は選んだ。 感情希薄かと思いきや、なかなかどうして情熱的ではないか。 アスランの意外な面を知ってしまったが、彼の人間性を垣間見れたことはそう悪い気分じゃない。 「あいつがそこまで執着する【思い出】には興味あるよな。…協力してやるか。あいつ一人じゃ心配だしな」 「ミゲルならそう言うと思った」 それ以来少しだけアスランを見る目が変わったように思う。 相変わらず彼はとっつきにくいが、根本にある想いと性格を知ってしまうと案外身近に感じてしまうものだ。 彼がそれに気付いたのかどうかはわからないが、少しだけ態度が柔らかくなった。 そして、それ以上に日々変わっていく、隣の存在への想いの強さ。 相変わらず2人の間の進展はなく。 挨拶がわりのキスをかわす程度で。 それでも大切だから。 失わないために、守るために、戦おう。 そう誓った。 end
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後書き オフ発行本WITHESシリーズの番外編にあたります。 本はアスランとキラばかりしか出てなかったので、他キャラからの話を…と思ったら何故かミゲル×ラスティになっていました(笑)。 アスランやキラを客観的に見ている話にしようとしたら、こうなったんですよね。なんせ他に適当なキャラがいなくて…(イザークは主観的だしディアッカはそれに引きずられるし、他キャラは目的のために動いているし)。 更に支離滅裂。オレは何が書きたかったんだろう…(-_-;) 本当ならコピー本として発行することを考えてたんですが、オンで。自分のバカさと恥を、今後の教訓のためにさらします。 |