floweret〜小白花〜
「何かご用でしょうか?って言うか、いつから居座ってるんでしょうか貴方は?」
嫌味を含んだ口調で目の前にいる坊さんに語りかける。
「用など微塵もない。ただ、猿が行くと言って訊かないから・・・」
「って、オイ三蔵!その『猿』はどこよ?」
自分の家に帰るや否や、何故かまるでココが自分の家かと言わんばかりにくつろぎモ−ドでコ−ヒ−ブレイク中の三蔵法師の姿を見て、唖然と立ち尽くす家の主、悟浄だった。
『自分は保護者として猿を連れて来ただけだ』と言いはる三蔵だったが、その肝心の『猿』の姿は部屋中探してもどこにも居なかった。
「ああ。1時間くらい前に八戒と買い物に行ったはずだ」
悟浄と同居している笑顔の素敵なお兄さんこと「八戒」は、つい小1時間前に猿こと「悟空」と一緒に買い物に出たらしい。
「ほ〜。んで、三蔵サマはお留守番ってか?」
「付いていく必要はあるまい」
「って、何でお前そんなに人ン家でえらそうなんだ!?」
仮にも客人のくせにこの態度ときたら・・・。
「五月蠅い、だまれ。お前にとやかく言われる筋合いはない」
人の家でえばりくさって言う態度ではまるでない。
「ったく、さっさと帰れよ−」
三蔵の態度のでかさは日常茶飯事なので、コレ以上何を言っても効き目はないと判断した悟浄は、早急に帰ってくれることを願うだけだった。でないと・・・・・・
2人の間にそれ以上会話は続かなかった。悟浄が話すことを止めれば、元々無口な三蔵が話を始めるのは珍しいからだ。部屋の中はコレと言って音もなく、ただ静かに時だけが流れていこうとしていた。
「・・・悟浄・・お前」
静寂を破って先に話しかけたのは、珍しくも三蔵からだった。
「・・・何?」
悟浄は言葉だけを返しつつ、三蔵の方を向かずタバコに火を付ける。
「何?あ、火ィ−?」
自分を呼んだのはタバコにつける火が欲しかったから?ッと尋ねて悟浄は三蔵の方に向く。しかし三蔵は別にタバコにつける火が欲しいと言う訳でもなさそうに、じっと悟浄を見つめる。
「な、何だよ・・・」
人にじっと見つめられてあまり心地のよくない悟浄は、とっさに目を反らす。
しかし、先程の言葉は続かずただ見つめるだけの三蔵。その瞳は全てを見透かしそうなくらい深い・・・全てを・・・そう・・知られたくない心まで全て見透かすような瞳・・・。まさか・・・
「なんだよ三蔵?」
「・・・否。何でもない」
「・・・あ・・そ」
まさか・・・いや・・・まさか。
悟浄は平常心を保ちながらも心は葛藤の渦の中だった。三蔵は気付いてしまったのか自分の気持ちを?悟浄が三蔵に抱いてる気持ちを!?まさかソレが・・・『愛』なんて代物だなんて・・・。悟浄は家に帰って三蔵が一人だと確認した瞬間から居心地の悪さに悩んでいた。コレ以上2人きりなんて・・・ヤバイ!ヤバす
ぎる!!?
悟浄は自分の理性に限界を感じていた。しかしあの三蔵が自分の気持ちに気付く訳はない・・・と理性を押しとどめる。
言ってしまえば楽になる?言ってしまえば何かが壊れる・・・そんなコト考えるのは容易い・・・悟浄も理解していた。
自分の気持ちを押しとどめて・・・一生墓場まで持って行こう・・・そう思った。
「たっだいま〜」
「只今帰りました」
グットタイミングと言わんばかりに、八戒と悟空は手には沢山の買い物袋を持って帰って来た。先程までのム−ドを一掃して部屋の中は明るさを増した。
「遅かったな」
「済みません三蔵。色々と見て回っていたら遅くなってしまって」
「ね−ね−八戒コレ食べてもいい?」
「ええ。でもちゃんと手を洗ってうがいしてからですよ?」
「うん」
まるでお子様とお母さんの様な会話・・・否、事実そうなのかもしれないが、何はともあれあの沈黙の数分間を取り消してくれるにぎやか猿に感謝する悟浄だった。
「又随分と買ったな〜。ン?コレどうしたんだよ?」
「ああ。このバラですか?ソレは花屋のオバサンに頂いたんですよ。残り物らしいんですけど、まだ綺麗ですし」
悟浄の問いかけにのほほんと答える八戒。男が薔薇の花なんて・・・でも流石にその薔薇は凛として見栄えも良く気高い様子に見えた。
「一輪挿しでも綺麗と思いませんか?ね、三蔵?」
八戒は同意を求めるべく三蔵に向く。
「ああ」
三蔵は別に否定するでもなく短くそう答えた。でも何故か表情に陰りが見えた。
「どうかしましたか?」
心配そうに尋ねる八戒。三蔵は「何でもない」と答え、それ以上何も語ろうとはしなかった。
「ま、綺麗っちゃ綺麗だな〜。この真っ赤な薔薇・・・オレみたいだしィ〜」
「悟浄・・・」
八戒は苦笑する。確かに似て無くもないのかもしれない・・・真っ赤な色・・・真っ赤な髪・・・真っ赤な瞳・・・
「バラがどうしたって〜」
手洗いとうがいを終えて悟空が戻ってきた。
「いえ。悟浄が「薔薇と自分が似てる」って言うんですよ」
「うそだろ〜」
「根無しペンペン草の間違いだろ?」
「あ、三蔵上手い!!確かに繁殖力強そうですしね〜。でも根を張りそうにないですもんね」
「お前ら・・・人を雑草みたいに」
誰一人としてフォロ−を入れるヤツがいないことに涙する悟浄だった。
でも笑いの絶えないこの空間・・・この間柄がとても好きだ・・・だから壊したくない・・・壊せない・・・『スキ』とは伝えられない・・・
「邪魔したな」
「三蔵もう帰るんですか?」
「ああ、長居した」
そう言うと席を立ち、猿に「帰るゾ」と言い玄関に向かった。
「おい、待ってよ三蔵〜まだコレ喰ってないのに〜」
お菓子を食い損ねた猿は必死に飼い主に抗議する。しかし三蔵は待たず、「置いてくぞ」と言わんばかりに扉を開ける。
「じゃ悟空、コレお土産です。持って帰って三蔵と食べて下さい」
「イイの?ありがと八戒ッ!」
悟空は嬉しそうにそのお菓子を持って三蔵の後を追った。2人がいなくなり一瞬部屋は静かになった。
「チビに甘いなお前は〜」
「悟浄・・・まだ伝えないんですか?」
「何を?」
「三蔵に『本音』を」
ドキッ!悟浄の胸の鼓動は一瞬高鳴った。
「やっぱ・・・バレバレ?」
「いえ・・・本人にはどうか解りませんが・・・」
八戒が気付いていた。悟浄の気持ちを・・・三蔵を『愛』してしまったことを・・・。
「・・・言ったらマズイだろ?」
そう言ってすっかり短くなったタバコを灰皿に押し付けた。
「ずっと黙っておくんですか?」
「あの猿に勝てね−だろ?三蔵だって・・・」
三蔵が一番想っている相手は嫌でも解る。三蔵は悟空のコトをを一番想っている。三蔵が『愛』しているのは悟空だけだッと・・・。
「あの猿は手強いゼ・・・」
悟空も三蔵のコトを想っている・・・いわゆる『相思相愛』ってヤツか・・・2人の仲は気持ちは嫌でも解っている。
「どうせアイツにとってオレは『ペンペン草』でしかないんだろ」
悟浄は道端に生える雑草を思い浮かべ悲観的になってしまう。
「悟浄知ってますか?『ペンペン草』って春の七草の一つで『なずな』って言うんですよ?花言葉は・・・」
八戒は悟浄に微笑んで言葉を繋ぐ。
「『すべてを君に捧げる』『あなたに全てをお任せします』て言うみたいですよ」
『すべてを君に捧げる』八戒はそう告げる。勿論三蔵が「花言葉」なんて乙女チックなコトを知っているとは思えないが・・・間接的に聞いた言葉・・・『自分の全てを・・・すべてを君に捧げる』・・・ってのはちょっと大袈裟か?
「悪くはないな・・・ペンペン草ってのも」
こんな事で少し救われた感じがするのは現金かと思ったけど・・・三蔵からのメッセ−ジ・・・そう受けとても罰は当たらないだろ?
例え咲かない恋の花でも・・・例え伝えられない愛のメッセ−ジも・・・この一言で忘れられる・・・きっと・・きっと・・・
「薔薇でもペンペン草でも格好イイ男ですよ♪悟浄は」
「ま、これほどイイ男を逃した代償は大きいよな〜な−んてな♪」
いつか時代が変われば本音を笑って話せるかも・・・そんな時までこの恋はそっと心に閉まっておこう。いつまでも・・・変わらず君といるために・・・。
−−−−−−−−−−
「な−三蔵ぉ〜。なんで今日に限ってオレと一緒に悟浄ン家に行ってくれたの〜?」
悟浄の家からの帰り道、悟空はなに気に三蔵に尋ねる。毎日暇のない最高僧三蔵サマは、悟空に付き合って用もなく悟浄の家に行く理由がなかった。
「・・アイツに・・・」
伝えることがあった・・・でも言わなかった。
「アイツって?」
言葉の続かない三蔵の変わりに悟空が続きを尋ねる。
「否、何でもない。只お前の監視役として付き合っただけだ。ガキは良く見とかんとな」
「え〜?何だよソレ〜???」
人をガキ扱いして!!っと抗議する悟空だった。
「あ、な〜三蔵。ペンペン草ってコレだろ?」
「ああ。「ナズナ」と言って一応喰えるぞ」
「これマズイよ」
「って、喰うな!」
道筋に生えているなにげない草。「喰える」と聞いただけで口にほおばって「不味い」と言う悟空。すかさず三蔵のハリセンが悟空の脳天にHITする。(注*道に落ちてるモノ(?)を拾って食べてはいけません)
「痛−ッッ。って、うげ〜葉っぱ臭い〜」
「ったく。喰うヤツがいるか!腹こわしても知らんぞ」
愛しい人を 『愛しい』と想う権利は誰にも束縛はされない・・・心から愛しい人・・・
「悟空・・・」
「え?何か言った?」
三蔵は言葉の語尾に『愛してる』と小さく呟いたが、当の本人は不味い草の処理でそれどころではなかったらしい。
「否、何でもない」
「変な三蔵〜」
「五月蠅い!とっとと歩け!日が沈みきる前に寺院に帰るぞ馬鹿猿ッ!!」
「ま、待ってよ三蔵〜」
茜色に輝く夕方の空は2人の影を何処までの伸ばし、交差する心は行く宛を定め、2人の絆をより一層深めていた。
Fin
今回主役は悟浄ッ!見えなくても悟浄!!(笑)
三蔵は悟浄に「何」を伝えたかったか・・・?ご想像にお任せします(逃)。
一応バラせば(?)5→3→9ですよね(違う?)。って、結局片想いかいッ!!不幸せでゴメンね悟浄・・・。(泣笑)
メイン4人出す意味がわからん・・・ま、いっか。(オイ)
ペンペン草「ナズナ」「シャミセングサ」の別名もありますね。春の七草の一つです。七草粥に入れますね(だから何?)。
「捧げます」だなんてかなりグラッっときませんか?(私だけ?)三蔵からんなコト言われたら・・・(失血死)。道端に何処にでも咲いてるたくましい花。目を凝らしてようやく解る花の形。真っ白な雪のような白い小さな花をつけて・・・なんとも可愛らしいと思うのは私だけでしょうか?愛おしくてたまりません(笑)。