優しい眠り








 
  ああ。いつから、こんなにも惹かれてしまったのだろう。
  きっと、最初から自分は狂っていたのだ。
  あの切なくも輝かしい夜明けから。






 一瞬のことで静寂は訪れた。
 紅い、アカイ、残像、が。眼を焼く。
 もう動かない、折れそうなほど細い身体。あの強い光を宿した美しい紫暗の瞳ももう開かれることはない。
 失われた、至高の人。

「それでも…」
 声は静寂に溶け込むように響く。

「…それでも。僕には、こんな方法しか取れなかった…」
 二度と見れなくても、触れることが適わなくとも、逢えなくとも…。

 もう彼が自分の前から消えることは、決して無い。
 去られることも奪われることも、無い。
 彼のすべては、自分の腕の中にある。

「玄奘三蔵…」
 彼の名、彼だけの尊い名前を呼ぶ。
 倒れ伏した彼を抱き上げて覗き込むと、普段の彼からは想像もつかないような寝顔があった。緊張も焦りも存在しない、素の表情。
 その美しさを独占できた歓喜が、奥底からどうしようもないほど沸き上がってくる。
 柔らかい髪をかき上げ、滑らかな頬をそっと撫でた。
 ゆっくりと彼愛用の拳銃を拾い、まだ死後硬直の始まっていない細い指に持たせる。
「一緒にイキましょうか。ねぇ?」
 穏やかな、本当に穏やかな声と共に、指を銃爪に絡める。
 照準は、己のこめかみ。
 …多分、こんなにも静かに穏やかに笑えたのは、この人に新しい名を貰った時以来だった。
 ああ、やはり自分のすべてはこの人のものなのだと、改めて思う。

 至高の存在。神にも等しき、唯一の人。
 それは、確かに神聖な行為だった。
 添えられた手。眠る人。穏やかな笑み。
 すべてが夢のようで。
 


 そして現実は、一発の銃声によってかき消された。



end.







壊れた8×3です。「83で心中ネタって良いねぇ」という最遊記ファンのお姉様がたの会話から浮かんだ話。飲み会でネタができると、そのまま暴走してしまうから困るんだよなー(笑)。
なんで心中に至ったかはあえてカットしました。この話はこの部分だけです。他は好きに想像して楽しんで下さいませ(苦笑)。






戻る