君がいるから…
街はいつの間にかすっかり冬模様と化していた。
寒さは厳しくとも、暖かいライトと人々の声。世間はもうすぐクリスマスという年に一度のイベントを迎える。
楽しそうに沸き立つ人々に、感慨深いものを思いながら二人は肩を並べて歩いていた。
久しぶりに取れた休暇。彼に逢うのも数日ぶりで。
だが、ヒイロのそんな想いとは裏腹に、周囲に目を向けるデュオは何処か淋しげな笑みを浮かべていた。
クリスマス。その日は、自分たちがすべてをかけて戦った戦争の、終戦記念日でもある。
戦争は終わった。終わったはずなのに、自分たちはまだ武器を手に戦っている。
人が人である限り、消えることはない闘争。その果てにあるものは何なのだろう?
赤と緑と白の三色に彩られた街は華やかで見ていて気持ちがいい。
けれど、同時にいろんなことを思い出す。
雪の下で共に笑っていた、大切な人たち。優しいあの人達を失って、自分はここにいる。
哀しくはない。そんな涙はとうに枯れてしまったから。
それでも思うのは、この光景をあの人達にも見せたかったから。
一緒に過ごしたかった時間を、懐かしく感じるから。
(オレは元気だよ、みんな)
心の中だけで、あの人達に手紙を書く。そっと隣を伺うと、彼に構わない自分を不満に思っているだろう雰囲気が感じられた。
(こいつがいるから。オレは大丈夫)
苦笑して歩幅を少し速める。
「デュオ」
慌てる声がする。それが楽しい。
一緒に暮らしているにも関わらず数日ぶりに逢ったヒイロは、本当に嬉しそうな顔をしていた。無表情かと思いきや、かなり感情豊かで真っ直ぐな彼の考えは、とてもわかりやすい。
また、自分は人を殺した。
他人の命を奪った。
誰も殺さないと決めたヒイロと違って、デュオは手を洗い切れていない。
平和になったはずの世界で、まだ、人殺しのまま。
ヒイロは何も言わない。そういう世界だということは彼もよく理解しているから。
完全平和などは所詮、理想にしかすぎないのだということを。
世界が闇の部分から目を背けようと必死にもがいていることを。
なんて矛盾だらけの世の中なのか。
つじつまの合わないことに疲れていくけど、一人じゃないから頑張ろうと思う。
消えない血臭が込み上げてきて、眠れない夜もあった。
壊れていくのだろうと思った時、照らしてくれたのはヒイロだった。
「おまえがいるから、守り続けたい明日がある」
その言葉が、どんなに力になったかなんて、きっと彼は知らない。
信じることも幻に変えてしまった世界で、たった一つのロザリオ。
切ないことばかりが胸を締め付けても、暗闇を彷徨っても、きっとそれだけでデュオは歩き出せる。
本心から必要とされたこと。諦めないでくれたこと。追いかけてくれたこと。
真摯な想いをぶつけてくれたこと。
それがどんなに嬉しかったかなんて、ヒイロにはわからないだろう。
いきなり小走りになったデュオにやっと追いついたヒイロは、小さく息を吐いた。
何故だろうか。とても不安だったのだ。
(別にこの程度でデュオが迷うわけでもあるまいに…)
そこで気付いた。昔は彼が自分を追いかけていたということに。
構わずにさっさと歩くヒイロを、デュオが声をかけながら追っていた、戦争中の頃。
彼が後ろを付いてくることに、ひどく安心感を覚えたことがあった。
『オレは生まれた時からずっと迷子なんだ』
人は皆、未来を探す迷子のようで、探してるふりをしながら、本当は誰かに自分を捜してもらいたがっているのだ。
誰かに本当の自分を見つけてもらいたくて、彷徨っている。
自分は、デュオに追いかけてほしかったのだ。
何度も傷付け、それでも許されたくて、見つめてほしくて。
今、隣にいる彼が、とても愛しい。
世界がどんなに不条理でも、何かまだ自分にできることがあるならば。自分を温めてくれたデュオを支えられるならば。
諦めはしない。
きっと何処まで行っても二人は二人のままだろうから。
一緒に、歩いていこう。
「行こう。デュオ」
「ああ」
手を差し出せば、当然のように笑って答えてくれる。
手を握れば、握り返されること。
並んで歩くこと。
そんな些細なことが、幸福だと、気付いた。
END
ちょっと古いけど、西脇唯さんの「君がいるから…」から。某天才探偵の孫が主役のアニメのOPだったかな。
ラブラブだね〜。本当は先に書いてた話はヒイロが不幸だったんだけど、せっかくの1×2の日だから、ヒイロを幸福にしてやることに変更(笑)。よかったな、ヒイロ(大笑)。
GWが終わってから、かなり経ちました。世紀も変わりました。それでもこの二人なら、自分らしさを変えることなく、進んでくれるだろうと思います。つーか、変わらんでくれ頼むから。他の三人ならともかく、こいつら二人が「大人」になるっていうのは、想像できないんです、なんとなく。
…しかし、久しぶりに書いたのに、ショートストーリーとわ…(涙)。