約 束
 








 暦の上では秋。だが気温は一向に下がることなく、このまま夏は終わらないのかと思わせる程だ。
 実際、もう夏が終わることはない。今のままでは。
 現在は、そんな世界だった。




 北欧の森中で10数名のグループが調査をしている。リーダーらしき壮年の男が、1人に尋ねた。
「ヒイロはどうした?」
「その辺を少し散歩してくると言ってました」
「こんな時にか? …まあ、よいか。もうすぐこんな自然も見れなくなるしな」
 溜め息を吐いて、調査隊長は森の奥へ目をやる。
 どこまでも続くような木々。汚れた空気を浄化してくれ、人間や他の生物に恩恵を与える森林。  昔は地球の各地で見れた光景。今は数える程度しかない。
 人間が破壊していった自然、汚染される地上。
 そして人間たちは生き延びるため、今度は地球内部に手を出す。
 どこまでも高慢で愚かな生物。命あるものが生まれ滅んでいくのは至極当然のことなのに、醜くもがいてしがみつき、何を求めるのか。


 地球の泣き声が聞こえた気がした。













 ヒイロと呼ばれた少年は森の中を奥へと進んでいた。
 年は14〜5歳くらいか。少し幼さの残る顔立ちに、強烈な光を持つ瞳が印象的だ。
 何の気もなしに歩いていたが、急に霧の中に入り込んだ。
 進むにつれて、どんどん深くなってくる。
 これはそろそろ引き返さないと迷ってしまうと思った時、あることに気付いた。
 やけに空気が清浄なのだ。
 フードを外し、上着を脱ぐ。何ともない。
 オゾン層破壊が進み、紫外線放射が強くなった現在は、完全に身体を防護しないと外出さえできないのだ。半袖などで出歩くが最後、皮膚ガンなどに侵されてしまう。日中は空を見上げることもできない。
 なのに、ここは正常な環境だった。
(霧のせいか…?)
 外界から切り取られたように、空気も陽光も土も本来の地球の姿をしている。
「こんな所が、まだあったとはな…」
 ヒイロは大きく背伸びをし、空気を吸い込んだ。気持ちがいい。
 ひんやりとした霧が身体を包み込む。少しの間、その感覚を楽しんでいた。


「………」
 水音が聞こえた気がして、そちらに向かってみる。
 木々を押し分け進むと、広い空間が先にあるのが見えた。
「池…? いや湖か」
 森から1歩踏み出した、その時。
 目に飛び込んできたものに、息が詰まった。
 血塗れの少女。
 驚くが、次の瞬間違うことが知れた。
 血かと思ったのは、腿まではありそうな少女の髪であった。
 少し暗い色がかった赤。輝くような緋色。
 少女は腰まで湖に入り、水浴びをしていた。


 少女がヒイロに気付いたらしく、顔を向けた。
 今度こそ、本当に息が止まる。
 透けるような白い肌。深く蒼い紫の瞳。
 どこかまだ幼げの残る、可愛らしいとも云える美しい少女。
 何も言えず、何も考えられず、ただ見つめていた。目を逸らすこともできなかった。
 少女は特にヒイロを気にしたようでもなく、ゆっくりと湖から上がる。
 ヒイロは動くこともできず、視線だけで少女を追う。
 ふいに風が舞い上がり、少女の身体についた水滴を飛ばした。まとわりついていた緋い髪がなびき、見えた身体の線から、少女が実は少年と知る。
 少年はそばの岩に掛けてあった服を取り、着替え始める。

「――――誰だ……おまえは…?」

 何とか出せた言葉はかすれていた。
 その言葉が意外だとでもいうような顔をして、少年がゆっくりとヒイロに目を止める。
 しばし見つめ合い、静寂が響く。
「…屋外で水浴びなど…そんなことをすれば身体にどんな影響が出るか、わかっているか? 確かにこの周辺の環境は良好なようだが、それでも注意するべきだ。死ぬぞ」
 今度はきちんと声が出た。
 少年はまじまじとヒイロを見据えていたが、やがてゆっくりと口端を曲げた。
「…へぇ…。このオレを見ても、正気でいられるとはね」
 思ったよりも、低い声。
 のんびりとした様子で少年がヒイロに歩み寄る。
 身長はヒイロと大して変わらないようだ。
 ぼんやりそんなことを分析していると、目の前に少年の顔があった。
 驚いて目を見開くと、少年は少し笑ったようだ。と思った時。
 唇に柔らかい感触。
「!」
 一瞬遅れて、彼にキスされていると気付く。
 甘く柔らかい唇が触れ、すごく近いところに伏せられた長い睫が見える。
 まるで夢を見ているかのような、ふわふわとした浮遊感をヒイロは感じていた。
「気にいった。おまえは殺さないでいてやるよ」
 唇が離れた瞬間、少年が何か言ったようだが、耳には届いておらず、ヒイロはじっと間近にある彼の瞳を見つめていた。








 ヒイロは少年に手を引かれるまま歩いていった。
 不思議なことに、まるで木々が少年を避けるような道ができていた。来る時はあんなにかき分けていたのが嘘のようだ。
「ここを真っ直ぐ行けば、霧から出て、仲間のところに帰れる」
 少年が立ち止まって、正面の道を指差す。
「じゃあな。気を付けて帰れよ」
 翻す少年の腕を、思わず掴んでいた。
「…何だ?」
 訊かれても、自分でもよくわかっていなかった。
 ただ、このまま別れてしまえば、もう二度と逢うことはない。そんな気がした。
「…おまえは何者だ? この辺に住んでいるのか?」
 少年は静かに笑う。
「答えろ」
 ヒイロは掴んだ手に力を込める。ややして少年が溜め息を吐いた。
「そうだよ」
「この辺に村はないはずだが」
 ヒイロは調査前に見た地図を思い出す。
「ああ。住んでいるのはオレ1人さ」




「…あのさ。腕、痛いんだけど? いい加減放してくれないかな。別に逃げたりはしないから」
 困ったように少年が肩をすくめた。
 知らず、彼の顔を凝視していたらしい。一瞬気まずさが湧くが、無表情のまま手を緩める。しかし放すことはしなかった。
 少年が首をかしげる。
「…あのー。一体何をしたいわけ?」
「………」
 自分でもわからないのだ。彼にはまったくわからないだろう。
 何かしたいわけじゃない。なのに手を放せない。目を逸らせない。
 少年は探るようにヒイロを見ていた。
 ただ見つめ合う時間が流れていく。
 やがて、少年が諦めたように目を閉じる。
「オレはここにいるから、いつでも来ればいい。おまえなら、許してやる」
 そう言われてやっと手を放すことができた。
 ああ、自分は彼にもう1度逢いたかっただけなのか、と気付く。
「またな」
 霧の中に消えていく小さな背を、見えなくなるまで見ていた。
 







 翌日もヒイロは森の中に向かった。
 霧の中をなおも進むと、城が建っていた。中世の頃に造られたような、立派なものだ。
 近づいて扉の前に立つと、何と扉が勝手に開いた。導かれるまま、中に入る。
 人気がなく静まりかえった、だがそれでいてきちんと整備されて全然寂れた様子はない、そんな感じがした。
 ここにあの少年が住んでいるのだろうか。
 この城の雰囲気は、彼に似つかわしい気がするのだ。
 正面にある階段をゆっくり上がっていく。上がりきった所で、左右に廊下が続いているが、迷わず左に向かった。
 そのまま奥に進み、ある部屋の前で足を止める。
 扉を開け、室内に入る。
 寝室のようだった。見回していると、ベランダに紅い髪が見えた。
 少年は、ヒイロに背を向け、ベランダで椅子に腰掛けて外を眺めていた。
 近づくと緩慢な動作で振り返る。
「ここに来客とは、珍しいな…」
「おまえが訪ねていいと言った」
「…オレが…?」
 少年のいぶかしげな表情に、眉を寄せる。
「昨日のことだ。まさか忘れたわけではないだろう」
「………」
 少年は再び外を眺める。
「悪いが、忘れたよ。オレはあんたを知らない」
「…!」
 忘れただと? 昨日の今日で?
「ふざけるな」
 ヒイロは背後から顎を持ち、無理やり上向かせた。
 少年はまったく動揺せず、じっとヒイロを見返す。
 その瞳に、違和感を感じた。
 見ていないのだ。
 すぐ目の前にいるヒイロを、映しているように見せて、実際は映していない。
 ヒイロを、ヒイロだけでなくすべてを見ていない。
 ヒイロは目を瞬かせた。彼は昨日もこんな瞳をしていたか?
 違う。昨日はちゃんとヒイロを見ていた。
 では今日の彼は、何だというのだ?
 本当に忘れてしまったのか?
 何も映さない瞳がショックで、口付けた。
 舌を侵入させるが、彼は何の反応も示さない。薄く目を開けると彼の瞳が間近にあった。キスされているというのに、目を閉じもせず、どこか遠い所を見ている。
 何故か悔しくて、きつく舌を絡めとって貪る。
 どれくらい時間が過ぎたのか、彼がおずおずと反応を返す。ヒイロの肩に手をやり、押そうとするが、力が入らないようだ。
 再び目を開けると今度は苦しそうな表情の彼がいた。
 きつい体勢で、しかも顎を掴まれているために呼吸ができず、息苦しいのだろう。
 最後に強く吸って、唇を離した。
 いきなり入ってきた空気に、彼は身体を折ってむせぶ。
 呼吸を整えてから、ヒイロに向き直る。
「…おまえか。本当に来るとは、律儀だな」
 瞳が先刻とは微妙に変わっていた。
「…オレがわかるのか…」
「昨日逢ったろ?」
 彼が薄く笑う。昨日と同じ笑み。
 ヒイロは安堵の溜め息を吐いた。同時に自分に驚く。
 何故安心するのだ。彼が何を見ていようと知ったことではないはずなのに。
 ヒイロは彼に背を向けて部屋を出た。
「おや、帰るの? そんじゃ、おやすみ」
 彼の脳天気な声が聞こえたが、振り返らなかった。
 何なのかわからないが、どうしようもなく苛立っていた。
 






 その翌日、何故かまたヒイロは彼に逢いに行った。
 自分でもわからないが、彼の顔が見たかった。
 調査の期間は今日でラスト。明日になれば自国へ帰らなければならない。その前にもう1度彼に逢いたかった。
 報告書などをまとめていたため、既に薄暗くなりかけていた。心配する他メンバーには適当な言い訳をし、城へ向かう。
 城内に入った途端、立ち込める血臭にむせかえった。
 驚愕に目を見開く。
 彼は階段に座り込んでいた。その足元には、人間の死体。
「な…!」
 血塗れの死体。そして彼は自身の手に付いた血を舐めていた。恍惚の笑みで。
 まさか、彼が殺したのか?
 愕然とするヒイロの存在に気付き、彼が顔を上げる。
「これはまた、運の悪い時に来ちまったなぁ」
 血化粧された唇を曲げて笑う。ぞくりとするような笑み。
 しかし、ヒイロはその笑みがとても美しく思えた。
「こいつ、盗賊なんだよ。ここを荒らそうとしたから、殺った。ちょうど腹も減ってきていたしな」
 茫然と見入っていたヒイロは、ハッと正気に返り、彼を見据えた。
「何故殺した。警察にでも突き出せばすむことだろう」
 一瞬目を丸くした彼は、くすくすと笑い出した。
「…そうだな。人間なら警察に行くよなぁ」
「何がおかしい」
 わけがわからなくて睨みつける。
「オレは、人間じゃないんだよ」
 彼の口からちらりと覗いたのは、牙。
「! …おまえは、一体…」
 答えの代わりに彼は笑みを深めた。
「死にたくなかったら、今のうちに帰った方がいいんじゃねぇの?」
 ふらりと立ち上がる血塗れの姿に、少し耳にかじっていた伝説を思い出す。
「吸血鬼…」
「ああ。おまえらはそう呼んでいるのかな。けど別に日光浴びても十字架出されても、死んだりはしないぜ」
 闇に生き、人の生き血を吸う、化け物。
 闇色の服、血色の髪、夜空の瞳、美しき少年。
 反射的に銃を取り出し構えた。
 それを見た少年が笑い、途端、少年の姿が消える。
「!」
 一瞬のうちに彼はヒイロの目の前に立っていた。
「どうした? 撃てよ」
 彼は銃口に自身の胸をさらけだしていた。銃筒を掴み、心臓に押しつける。
「いかにオレでも、心臓をこの至近距離で撃てば殺せるぜ」
 挑戦的な笑みを浮かべて、殺してみろと言う。
 ヒイロは動けなかった。自分の指がとても重く感じられる。
 何故だ。吸血鬼など、脅威の存在でしかない。殺すべきだ。簡単なことだ。指に少し力を加えればいいだけのことだ。
 なのに、何故…。
 そして1つの疑問が浮かんだ。
「何故、今までオレを殺さなかった」
 殺そうと思えばいくらでもできたはずなのに、彼はヒイロを殺さなかった。今もそうだ。
「初めに言ったろ。おまえは殺さないって」
 目を細めてヒイロを見やる。
「普通、人間はオレを見た途端、オレの虜になっちまうんだ。オレの忠実な下僕と化す。こいつもそうだ。けど、おまえは違った。…はっきり言うと、人間と会話をするなんて、生まれて初めてたぜ」
 一瞬、彼の表情に陰が混じった気がした。
 人間と会話…?
 そういえば彼はこの城に1人で住んでいると言った。
 他に仲間はいないのか?
「…おまえの仲間はどうした?」
「みんな、とっくに死んだよ。残ってるのはオレ1人。オレが最後に生まれた子どもだったんだ」
 最後の、生き残り。この世でたった1人の存在。
「殺さないのか?」
 動かないヒイロに、がっかりしたような顔をし、手を放す。
 ヒイロは目を伏せ、銃をしまった。
「…今殺さなくても、どのみち長くはないだろう。もうすぐ全人類は地下へと移住する。おまえは食料がなくなって餓死。それだけだ」
「あいにく、それはないな。別に人間の血でなくたっていいんだ。オレの食物は生物の精気なの。植物や動物から少し精気を分けてもらうだけでいい。人間の血は、1番栄養があるってだけのことさ」
「…ならば、これ以上人間は殺すな」
 言いながらヒイロは、何とか彼を殺さない理由を探している自分に気付いた。
 それが何故か、またわからなくなる。
 彼と逢ってから自分はわからないことばかりだ。
「そんなことは保証できないな。まあ、せいぜい早く移住するか、ここに一切人間を近づかせないようにするか、するんだな」
 せっかくヒイロが努力しているというのに、彼はすべてを拒否する。
「…そんなに、殺されたいのか」
 ヒイロは静かに睨みつける。声が低くなっていた。
「別にどうでもいい。いい加減永く生きてるからな。執着もないし、未練もない。退屈な人生、たまには変わったことがないと面白くねぇだろ?」
 肩をすくめる彼が、何故か哀しかった。
 衝動のままに手を伸ばし、抱き締める。
「…え…!?」
 彼が驚いているのがわかる。けれど離す気になれなかった。
 長く柔らかな髪の中に手を入れ、耳に口付ける。
 このまま力を強めれば折れてしまいそうな、華奢な身体を全身で感じる。
 少年はただ茫然としていた。
「…おまえ、何考えてんの…?」
 答えず、頬を擦り寄せる。
「…あのさ。そろそろ帰らねぇとヤバイんじゃねぇの? おまえ、計画の重要人物の1人だろーが」
 思わずハッとし、少年の顔を覗く。
 どうして彼が計画のことを知っているのだ。
「あ〜、最初おまえに触れた時、ちょっと意識を読ませてもらったんだ」
 触れた時。初めのキスの時。

「ヒイロ・ユイ。おまえはもうここに来てはいけない。帰りな」
 彼の瞳が光った途端、ヒイロは身体を離し、外へ向かい出した。
 身体が思い通りにならない。声さえ出ない。
 後ろを振り向くことさえできないまま、ヒイロは真っ直ぐにテントへと歩いた。















 自国へ戻ったヒイロは、忙しい日々を送っていた。
 研究所で日々の大半を過ごす生活の中でも、心によぎるのはあの少年だった。
 あのまま別れてそれっきり。血塗れの彼を抱き締めたのに、ヒイロの服は真っ白のままだった。それが彼との距離のようで、寂しかった。
 キスして抱き締めた感覚さえ朧げで、あれは夢だったのではないかとさえ思ってしまう。
 …それでも、彼は確かに存在した。今も、あの霧の中でいるのだろう。

 数日ぶりに自宅へ帰る道中で、ある宝石店の前にふと足を止める。
 綺麗に輝く紫色のアメジスト。どこかで見覚えがあるような気がした。
 そうだ、霧の中で出逢った少年。
 彼は宝石のような瞳をしていた。
 美しく輝いてはいるが、何の感情も示さない、石。
 ヒイロを見ているのに、時折ふっと何も映さなくなる瞳。
 笑っていても、目がまったく笑っていなかった。

 哀しい、と思った。

 何にだろう。彼の目に映らない自分? それとも、そこまで狂ってしまっている彼?
 彼は、ヒイロは自分と初めて会話した人間だから殺さない、と言った。
 一瞬だけ見せた、淋しそうな表情。
 彼は死にたかったのかもしれない。本当に。
 たった1人で、孤独の中で生き続けて、疲れたのかもしれない。
 永い時間を終わらせたいと思ったのかもしれない。
 最後の生き残り。そのために自分で命を絶つこともできなくて。
 だからヒイロに願ったのだろうか。死――解放――を。
 どうしようもない慕情が湧き上がってくる。
 しかし、今の自分は彼と遠いところにいた。
 計画は着実に進んでいる。もう人類に時間は残されていない。自分がここを離れるわけにはいかない。
 少し目を伏せ、再び歩き出す。
 見上げることさえできない空が、遠かった。









 その後、ジオトピアは完成した。
 全人類が移住した中、1人の少年の姿が消えた。
 慌てて捜すが消息は掴めず、やがてタイムリミットとなり、シェルターの入口は閉じられ、そして。


 地上に静寂が訪れた。









 ゆっくりと扉が開き、城内に光が入る。
 階段を上がり、以前訪れた部屋に向かう。
 以前と同じように、彼はベランダに座っていた。
「ここにはもう来るなと言わなかったか?」
 振り向かない彼のそばに行き、後ろに立つ。
「ええ? ヒイロ」
 ヒイロは背後から少年を抱き締める。彼は抵抗しなかった。
「オレをおまえの仲間にすればいい」
「…本気か…?」
 呟くように、だがはっきりと声を出すと、やっと彼が顔を上げてヒイロを見やる。
 宝石のような瞳は、今度はちゃんとヒイロを映していた。
「もう、おまえは独りじゃない。オレがいる」
 少年の前に移動し、正面から向かい合う。
 彼は目を瞬かせていた。
 その瞳を見据えながら、ゆっくりと顔を近づける。
 抱き締めると、少し戸惑って背に腕が回された。
「…まだ、名前を聞いていない」
 唇を少し離して囁くと、紅い唇が静かに動いた。

「―――――…デュオ」

「デュオ…」

 大切な言葉のように少年の名を呼び、再びキスを交わす。



 永遠の約束を、誓う。




 To be 恋人の種 







これはラストにあるとおり「恋人の種」の過去話です。じゃあ掲載順序が逆かっていうと、そうではありません。恋人の種を書いていて浮かんだ話なので。ですから本でもこちらを後に載せました。
双方の話で謎めいた部分は、互いの伏線にもなってます。なってない? はははは、力量不足は許して下さい(殴)
ヒイロはまぁ色々考えてますが、要はデュオに一目惚れしやがってんだよね、この熱血野郎(爆笑)。





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