よぉ、元気か?
なんて訊かなくても、お前らは相変わらずバカばっかりやってんだろうな。だから
心配なんてものはしてないぜ。する必要もないだろ?
こっちは随分変わったよ。時代はどんどん進んでいって、お前らといたあの頃も遠
い過去のように感じる。街の様子も変わり、お前らがいた家もうちも、もう他人の家
に建て替えられている。昔の風景はもうなくなっちまった。
お前らは、変わっていないんだろうな。昔のあの頃のまま。それでいいと思う。
時は過ぎていっても、「自分」は変わらずに、そこにいればいい。
どんなに遠くまで行っても。
一番大事なものは、ちゃんと知っていたお前らだから、最後にはきっと間違えない。
だから心配なんてバカらしくてやってねえよ。時たま思い出してやってるだけだ。
あれから、たくさんの出会いと別れがあった。それなりに頑張って生きてきた。
だけど、何故だろうな。お前らと出逢って、一緒にいたあの頃が、一番輝いていた。
そんな気がするぜ。
バカなことばかりやってたのにな。良く喧嘩もしたよな。それでも会えばそんなこ
とはどうでもよくなって、また一緒に騒いでた。
一生バカは治らないかもな、と思った時もあったけど、そのとおりだったみたいだぜ。
笑っちまうよな。
あの頃は言えなかった。照れくさくて、絶対言うもんかって意地になっていた。
何より、言わなくても解ってくれてると思った。
それを、今になって、きちんと伝えたいと思うのは、俺も年をとったってことかな。
お前らといて、俺は、本当に楽しかった。
無茶ばかりするお前らのこと、ほっとけなくて、巻き込まれていったこともあった
けど、確かに俺もお前らに救われていたことがあった。
辛かったこと、苦しかったこともあったけど、お前らといたあの空間が、俺は好き
だったんだ。
また、いつか、会おうぜ。
お前らは、俺の、最高の、ダチ、だからさ。
ありがとうよ。
カサリ、と、読み終えた短い手紙が再び折りたたまれる。
「…あいつも、逝っちまったか…」
幽助は手の中の手紙を見つめながら、呟いた。
その表情に悲壮感はない。思い出を懐かしむような柔らかい笑みだけがあった。
「つい数日前です。その手紙を皆さんに渡してくれと…。そう言った後、和真さんは眠るように
安らかな顔で逝かれました」
静かに告げるのは、その手紙を持ってきた雪菜。
彼女は幽助たちが魔界に来てからも、ずっと桑原の傍に残った。彼の命が尽きるその時まで。
「そうか…」
幽助はゆっくりと顔を上げて、目の前に腰掛けている雪菜を見つめた。
初めて会ったときと同じ、少女の姿のままの彼女。
同様に、あの頃とほとんど変わらない自分。
寿命の長い妖怪ばかりが住む魔界では、とてもゆっくりと時間が流れていく。3年に1度の魔
界トーナメントくらいだけが、時間を思わせる。
その間に人間界で過ぎていった時間は早い。それをこのような時ばかりに感じるのは、少し寂
しい。
過ぎた時間の長さと、温かかった人たちを、想う。
「…ありがとな。あんたが傍にいてくれて、桑原のやつは幸せだったと思うぜ」
それは本心からの感謝だった。
人間界を去った自分はもうあの人たちに何もできなかったけど、彼女は一人残って、桑原を最
期まで傍で支えた。
ありがとう。
「いえ、礼を言われることではありません。私がただ和真さんの傍にいたかっただけのことです
から」
「いーんだよ、それで」
幽助はにこやかに笑い、元気良く立ち上がる。
「よーし。んじゃ、この手紙を蔵馬たちにも見せに行かねえとな。あ、飛影のやつは素直には見
ねぇだろうから、ちゃんと捕まえとかねーと」
「あのっ。幽助さん」
はじかれるように立ち上がった雪菜は、少し考えて顔を伏せる。
「…私も一緒に行ってかまいませんか? …会いたいんです。飛影さんに…」
その言葉に込められた思いを悟り、幽助は苦笑する。
「もちろんいいぜ。遠慮する必要はねえって。じゃ、行こうか」
「はいっ」
そして、二人は部屋を後にした。
魔界の風は、今日もあの頃と変わらずに吹いていた。
『ありがとうよ』
バーカ。そんなもん、昔っから知ってたさ。
俺は言わねーよ。言うんなら、直接、面と向かって言ってやる。
また、きっと、会おうな。
後書き
原作のその後の話です。50〜60年くらい先かな? なんか、手紙というより遺書ってかんじ
ですね。
私は幽遊白書に関しては、ノーマルでアヤしいのでもOKなんですが、これはノーマル版の設
定です。幽助・蔵馬は原作最終回の10年くらいしてから、魔界に行きます。その後最低でも100
年は人間界に戻ってきません。これは掟とかいうのではなく、本人たちのけじめです。成長しな
い姿のままで、いつまでも人間界にいるわけにはいかない、という、ね。
ちなみにこの設定は、私が今まで出した幽白の作品にも反映してます。それだと、いつも桑原
君が既に死んでいることになって、全然出てこないので、それは可哀想だと思ったんですが…。
結局この話でも死んでいる…。ごめん、桑ちゃん…。