「夢幻琉球 つるヘンリー」はこんな映画


      
「ウンタマギルー」でベルリン国際映画祭カリガリ賞などを受賞した、高嶺剛9年ぶりの劇映画であり、映画そのものが沖縄の空気になってしまったマチブイ(沖縄語で混沌の意味)な「オキナワン・デジタル芸能ムービー」

主演は「絹糸声」と称される琉球民謡歌手の大城美佐子(島袋ツル)
そして、ハーフの天才空手少年の宮城勝馬(高等弁務官と島袋ツルの子と噂される島袋ヘンリー)。宮城勝馬は映画初出演にもかかわらず、重要な役を演じきっている。

島袋ツルと空手少年ヘンリー親子が、「ラブーの恋」という映画シナリオ(高嶺剛オリジナルシナリオ)をガジュマルの小枝から拾って、それを面白おかしく映画化するという琉球民謡空手映画物語。「ラブーの恋」とは沖縄の過ぎ去りし日々を懐かしみながら、未来を言い当てるSF映画だった。

高嶺映画特有の奇想天外痛快無比なストーリー展開のみならず、登場人物の恍惚的ビジュアルの美しさ、生っ粋の島唄歌手による琉球音楽の心地よさ、炸裂する60年代オキナワンロック、さらに那覇、石垣、基隆(台湾)ロケなどが、映画のマブイを彩る。風景のざわめきがそのまま映画となってしまった感じなのだ。

この映画は、国境を気にしない琉球映画である。使用言語も沖縄語、八重山語、台湾語、英語、日本語と多彩。エドワードヤンの映画でお馴染みのチンシアチーや、無名の流しからTVCMの大ヒットで一躍台湾歌謡界の脚光を浴びた金門王と李炳輝のコンビと大城美佐子が「蘇州夜曲」を歌うシーンは必見。また、オリジナルテーマは「ウンタマギルー」に続き、再び上野耕路が担当している。

時代設定は一応復帰前の1960年代だが、あまりこだわらない

映画のキーワードは「chi

ローバジェットならではの、小数精鋭スタッフでフットワークも軽やかに、予定調和に萎むこともなく、人々の表情がいききとしてとてもいい感じのスージーグリームービー(路地裏映画) もちろん、与那原町はじめ多くの沖縄の人々の映画への情熱が根底に支えているのは言うまでもない。

1998年10月完成。

1998年11月 第11回東京国際映画祭 特別参加

1999 ロッテルダム国際映画祭

1999 香港国際映画祭 バンクーバー国際映画祭と続き

1999  沖縄リウボウホールにて全国初公開

8月下旬から 東京澁谷 アップリンクファクトリー

10月 大阪 シネヌーヴォで公開を経て

以降、北海道、名古屋 広島、高松を予定

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ショートシノプシス

島袋ツルが映画をつくるわけ。

 琉球民謡歌手の島袋ツルは、ダメな男と別れるため夜逃げ中。ガジュマルの小枝に挟まった劇映画「ラブーの恋」のシナリオを見つけた。島袋ツルはシナリオに記された住所をたよりに、作者の銘苅に届けに行くが、銘苅はひたすら黙ったままだ。

 島袋ツルは困ってしまい、この家に勝手に住みついているようなヨシコーおばさんと唄サンシンで酒盛りして身の上話に興じた。ヨシコーおばさんが言うには、作者の銘苅は普段から自分のシナリオをわざとガジュマルの小枝に挟んでおいて、拾った人がどのような反応を示すのか観察することを趣味としているという、実は自分もそのようにシナリオを届けた一人だが、銘苅は自分には何の反応も示さず、ただ黙っているので、仕方なく銘苅の身の回りの世話をしているとのこと。

 島袋ツルはかつて米軍文化部で映画係をしていたので、映画の表現性のみならす技術的な知識も豊富だった。そして、ヨシコーおばさんとの身の上話の成りゆきで、マーロンブランドの「8月15夜の茶屋」の沖縄ロケの時も有力な愛人の一人だったと嘘の告白をした。

 その話を隣の部屋で盗み聞きした銘苅はなにやら思案顔。

 島袋ツルとヨシコーおばさんの酒盛りは3日連続続いた。

 そして、次の日の朝、隣の頑固なコーサーじいさんがやってきて二人に言った。銘苅がいうには「私は日本政府がなんらかの手続きミスで私の口座に振り込んだ沖縄復興特別援助金・通称「これっきり予算」の100万ドルをスロットマシンで使い込んでしまったよ。私はあの金で「ラブーの恋」の映画をつくるつもりだったのに・・・ああ私はもうなにもかも嫌になってしまった。そうだ子供の頃防火水タンクで溺れた時助けてくれたあの商業高校の女性を探しに行こう」と言って夜明け前に台湾へ旅にでたと言う。

 それを聞いたヨシコーおばさんは「イリオモテヤマネコの餌付けのアルバイトを琉球大学の古堅先生に急に頼まれたさぁ」とそれとなく独り言をつぶやいて、銘苅をおうようにして、昼御飯前に西表島へ旅立った。

 隣の頑固なコーサーじいさんが言うには、ヨシコーおばさんは銘苅にそうとう惚れているとのこと。

 残された島袋ツルは困ったけれど、ちょうど今の愛人と別れて、どこかに部屋を借りたいと思っていた事情もあり、高等弁務官との間にできた空手上手の16才の息子ヘンリーと一緒に、まずはこの家に住みついてみることにした。

 銘苅の部屋には「ラブーの恋」のイメージコンテや様々な資料、撮影カメラ、編集機などか無造作に置かれている。裏座にはひばちに赤茶盆があったりしていいかんじ

 島袋ツルは息子ヘンリーに夜な夜なシナリオ「ラブーの恋」を読んで聞かせた。

 いつしか、二人は「ラブーの恋」を自分達の得意芸である、島唄、サンシン、空手などをうまく活用して、ひそかに映画化することに夢中になっていくのであった。