「メメント」
「メメント」のストーリーは"結果"から"経過"へ逆戻りするにもかかわらず、
先が読めないし、あっと云わせる"ラスト"も用意していて、その発想からプロット、
場面の構成など、全てが素晴らしく面白いと思う。
ストーリーを時間軸順に並べ直すと一応の解釈はできるが、なお、いくつかの疑問が残るので、
それらを挙げていきたい。
なお、まだ一度しか観ていないので、ミョージの思い違い・勘違い・見逃しなどの可能性が十分にあります。
ご了承下さい……。
[疑問1]:レナードが前向性健忘になったのはいつなのか?
映画の紹介文などでは、妻がレイプされ殺されたショックで……となっているし、
映画の序盤〜中盤でもその強盗に頭を殴られた際の後遺症で、と説明されているが、
ラストでは実はレナードが妻とむつまじく暮らしていた頃から前向性健忘だったという
事実がほのめかされる。
これは、妻が愛撫するレナードの体に、既に入れ墨があるという描写によるが、それが
"事実"を知ったレナードの観念的なフラッシュバックであるという解釈も出来るので、
やはり妻を失ったときのショック(または頭部外傷)からである、という考え方も
明らかな矛盾ではないと思う。
ただ、どちらにせよ、保険調査員の仕事は前向性健忘では絶対に出来ないので、
前者なら「調査員続行中→妻の事件→ショックで前向性健忘」(A)となり、後者なら
「調査員→前向性健忘発症→病気のため調査員辞職→妻の事件」(B)となる。
[疑問2]:レナードの妻は誰が殺したのか?
普通に考えると、これは二人組の強盗である。
しかしラスト付近(時間軸的には序盤)で、実は糖尿病でインスリン注射を必要としていたのは
サミーの妻ではなくレナードの妻だった(サミーに妻は居なかった)……というテディの
話があり、これは"事実"かどうか解らないが、もしそうだとすると、夫の快復を信じて
自分に複数回インスリン注射をさせ昏睡状態に陥って死んだのはレナードの妻だということになる。
つまり、前述の(B)のケースにあたり、「調査員→前向性健忘発症→病気のため調査員辞職→
インスリン事件→浴室(かどうか不明だがタイル貼りの部屋)に放置→記憶障害により全て忘れる→
強盗が押し入ってくる……」ということになるが、この場合インスリン事件と強盗の押し入り時期は
全くの偶然による一致ということになる。
もちろん司法解剖で致死量のインスリンは検出されるだろうが、
おそらくレナードは病気を理由に無罪になるだろう。
なお、"最初の復讐"の写真が存在する(これは完全な"事実")ことから、やはり強盗は二人いて
妻をレイプし殺したのであろうし、個人的には、レナードの前向性健忘は殴られたときからで、
"最初の復讐"がやはり正統な復讐であったのだろうと思う。
(B)の解釈も出来ないことはないと思うけれど、ご都合的に過ぎる感は否めない。
[疑問3]:テディはどういう人物なのか?
"最初の復讐"の写真が存在することから、実際にレナードの私的復讐の手助けをして写真に
納めたところまでは確かだと考えられる。
ただその後は、廃屋にジミーが来ることを知りつつレナードと引き合わせたことや、
麻薬の取引に絡んでいたと思われる(着替えの袋に入っていたコースター)ことから、
あまり善良な警官(本当に警官なのかどうかも解らないが)とはいえないようである。
[疑問4]:ナタリーとジミー、ドッドの関係は?
これは、あくまで個人的にいまいち把握しきれなかった部分なので、
世間の人は当然に解っているのかも知れない。
ナタリーとジミーが一緒に写った写真があることから、二人は実際に夫婦だったのだろう。
ただし愛し合っていたのかどうかは解らない。
テディの言を信じれば、バーをねじろにコースターを介して麻薬取引の打ち合わせをしていた。
そのコースターをテディが持っていたことを考えれば、テディはジミーと麻薬取引をする予定だったが、
金を強奪することを考え、廃屋でレナードに妻の仇と思いこませてジミーを殺させた……という
筋が予想される。
けれどこの仮定は他の"事実"とのかねあわせで再構成がしにくいので、いまいち解りづらい。
また、これにドッドがどう絡んでくるかだが、ナタリーがドッドのことを"カレ"と呼ぶのが
どういう意味なのか、よく解らない。
恋人、という意味ならば、時間的にいってジミーの"失踪"とほとんど大差ないのだから、
浮気ということになるだろう。
ナタリーはジミーについて『誰かと出掛けたまま帰ってこない』というようなことを言っていたが、
テディが喋らなければジミーが死んだことはナタリーには判らないはずで、またテディがそんなことを
言うはずがないと考えられるから、本当に知らなかったのだと思う。
とすると、レナードの"病気"が本物だと知り、ドッドに車(ジャガー)のナンバーを
教えるなどしたのは、レナードに対する復讐の意味ではなく、何らかの理由でドッドを
懲らしめたかった(もしくは殺害したかった)のだろうか。
レナードが2度目にナタリーの家へ怒鳴り込んで『こいつは誰だ!』とドッドの
写真を見せたときも、そんな素振りだったように思う。
ただ、なぜドッドはレナードにあれだけの殺意をみせたのか……そこも解らない。
麻薬の取引に絡んでいたのなら、レナードがジミーの金を持ってトンズラした形になっているので
一応理由はあるが、その場合テディ経由にしろドッド経由にしろナタリーはジミーの件を
知っていたことになってしまう。
例えば、ナタリーが『私に言い寄ってくる男がいて困ってるのよ……』などとねつ造したんじゃないか、
とかいう想像で埋めても良い部分なのだろうか?
もしかしたら作中で触れられていたかも知れないけれど、ちょっと、思い出せない。
[疑問5]:結局どうなんだ?
解らないことが多すぎる。
2度目以降を観たら、また、更新しようと思います。
▽
随所に盛り込まれている面白い展開のなかでも印象に残っているのは……
『おれは何をしてる? 奴を追っている……いや、追われている!』