ボナクア 外伝

または 海を渡ったフレーバーウォーターの運命



 それは2000年11月30日23:16:52のことだった。
 旧友の音無(仮名)から、1通のメールが届いたのがそもそもの発端であった。
 5つのJPEG画像を添付した文面にはこうあった。


>出張先の香港で見つけた。
>あー今では懐かしい思い出ですね。


 そして添付の画像の1枚を開いた私は目を見張った。

 Bonaquaだと!?。

 まさか、日本で数年のときを経て一度は復活したものの、あっさり消えていったあのボナクアが、1997年中国に返還されなお繁栄を誇る香港の地で、人知れず生きていたのか?。
 信じられない思いでよく見てみるが、ラベルには確かに「a product of The CocaCola Company」と書いてある。いわずと知れたコカ・コーラ社のロゴ。間違いない。

 音無(仮名)はドリンクマニアではないが、私のかつてのボナクアの愛好ぶりを知っており、彼がこうしてわざわざ写真まで撮って送ってきてくれた事からも信用はできよう。

 いや、海外に場所を移して、よくぞ生き延びていたものだ。日本で手に入るかどうかはともかく、コカ・コーラ社がまだボナクアを作っていたという事実が大きいというものではないか。

 私はさっそく返信しておいた。

<で、どれだけ入手してきたんだい?。1箱でも2箱でも買い取ってやろうじゃないか(笑)。
<あ、念のために聞くけど、これ中身はあの本当にあのBONAQUAなんだろうね?。
<Coca Colaの文字が見えるからそうだとは思うけど。

 もちろん、海外から1箱も買ってくるはずはないが、ひょっとしたら1本くらいはおみやげ代わりに持ってきてくれているかもしれない。ちょっとだけ期待していた。

 12月3日、再び彼からのメールが来た。

>香港のセブン・イレブンで買ったのは、偶然で、(まぁ、あのパッケージですから…ローカルの
>怪しいメーカー製の物だと思っていたので…)ホテルの部屋に戻って、飲む時になって
>商品名が、あのBONAQUAだと云う事に気が付いたのでこれは是非とも写真だけでも撮って送らねばと云う事に…

> こんな事に成るんじゃー無いかと心配してたんだけど、
(中略)
>チャンと成分表部分の画像も送ったでしょう?
>オリジナル(缶)の成分表と比較しました?
>保缶(=管)してるよね(笑)
>味を出しそうな原料有ります?
>「所変われば(中)味変わる」と言ってですね(笑)
>ヒント:日本で(雪)山をイメージ付けて売っている飲み物なーんだ?
>今、私の手元には飲みかけの一本が有るには有るけど…
>どーしても手に入れたいって言うのなら「VOLVIC」にでも詰め替えて送りますけど…
>「六甲のおいしい水」の方がいいですか?
(中略)
>そんなに落胆しないでね…。



 ・・・・・・・・・・。

 それって、つまり、いわゆる、水・・・・・ですか?。
 世間一般でいうところの、ミネラルウォーターですか??。

 バカな!。いくら限りなく水に近い、っていうかまるでただの水だと酷評されたことすらあるボナクアとはいえ、

”本当にただの水”

にしてどうするよ。

 確かに、この「Bonaqua」というスペルを見たとき怪しいとは思った。本来のボナクアのスペルは「BONAQA」。通常の英単語ではQの次にはUがくるのが決まりだが、それがない不自然なスペルが特徴だった。だが、日本の商品が外国で名前がちょっと変わるのはよくある話なので(ポカリスエットもアメリカでは短く「POCARI」になったし)、あえて自然なスペルにしたのだろう、と解釈していたのだ。
 ちなみに、ラベルの一部には「Mineralized Water」と書いてあった。確かに、フレーバーウォーターではない(^_^;)。

 悲劇であった。あのコカ・コーラ社がこんなことをしていたなんて・・・・。
 香港なんて、香港なんて〜〜。






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