PRAYER 〜総士〜









浸食される…!
「一騎! 同化されるぞ! 脱出しろ! こちらからでは切り離せない!!」
叫び声も虚しく、一騎の声は途絶えて。

ただ、最後に、一騎が自分の名前を呼んだ気がした。







「一騎! 一騎?! しっかりしろ一騎!!」
 
いくら呼びかけても返されるものはなく。
繋がっているはずの一騎の感覚が読めない。
 
「一騎!!」

それでも、呼ぶことを止められなかった。

 



ファフナーのモニターは遮断されたままで。
島に設置されたカメラから見える光景では、マークエルフもフェストゥムも静止していて微動だにしない。

「…どうなってるの…?」 オペレーターをしている誰かの言葉は、皆の代弁だった。

動かないフェストゥム。触手をファフナーに絡みつかせたそれは、同化を狙ったようにも見えたのに。

まるで時間が止まってしまったかのようだ。
マークエルフへは一切の通信が取れず、状況も判別できない。


同化されたのか…?

そんな考えがよぎる。


「一騎!!!」

総士は必死に呼びかけていた。

一騎が今どんな状況なのかはわからない。
けれど、このままでは一騎がもう帰ってこない気がする。

帰ってこない。
すなわち『いなくなる』ということ。

(そんなこと…絶対させない!!)

そんなことはさせない。

母は幼くして死んだ。
父も死んだ。
自分にはもう一騎しかいないのに。

まだ自分は一騎に何も伝えられていない。

目の傷への赦しも。
口にすらしたことがない、未来への願いも。

自分の秘めた想いも。

何も。まだ。


守りたいのは、何よりも彼なのに。
彼がいなくなったら自分は…。

これは、大切な彼を戦場に連れ出した自分への報いなのだろうか?

負った傷害で、彼が総士を気にすることを喜んだ罰なのだろうか?

同性という許されない相手を想った罪なのだろうか?


それならば、罪を背負うのは自分だけでいいのだ。


彼は純粋で綺麗で。

自分なんかのために苦しむ必要など欠片もない。

だから。

「…返してくれ」

どうか。

「帰ってこい! 一騎!」

お願いだから。

行かないで。

いなくならないで。

置いていかないで。

傍にいて。

「一騎!!」

奴らになど、渡すものか…!






「総士…」

「!」
聞こえた。一騎の声だ。
弱々しく、泣いているような声。

自分を呼んでいる。

ここだよ。
僕はここにいる。

おまえの傍にいる。
だから泣かないで。


暗闇の中に人影が見える。

幼い頃の一騎が泣きじゃくっていた。

「俺はいらない子なの…?」

そんなことない。少なくとも僕にとっては何よりも必要な存在だよ。

「寂しいよ…。何処にいれば良いの…?」

こっちにおいで。ここにおいで。
泣かないで。

声にならない声が心の中で木霊する。
もどかしい。

【大丈夫。さぁ、おいで】

暗闇が一騎を包み込んでいく。

「一騎!」

総士はあらん限りの力で腕を伸ばしていた。一騎に向かって。







何かを切り裂いたような断末魔が響く。
マークエルフに絡んでいたフェストゥムが、絶叫をあげながら離れていく。

マークエルフがそれに剣を突き立て、フェストゥムは闇に呑まれていった。







フェストゥムが消滅したことを確認すると、総士はジークフリードシステムを出て駆け出した。
大人たちが何か言ったようだが、それも耳に入らない。

一騎は無事だろうか?

その考えだけが総士の脳裏を占めていた。

格納庫に戻ってきたマークエルフは見るからに憔悴しきっていて、よく戻って来れたものだと思うと同時に、不安がまた大きくなる。

「大丈夫か?! 一騎!」

「…大…丈夫…」

かすかに、一騎の声がした。

たまらずマークエルフに飛びつき、コクピットを無理矢理こじ開ける。

ゆっくり開かれた瞳に自分が映った瞬間、総士は一騎を抱きしめていた。

「一騎…」

よかった。彼はここにいる。

帰ってきてくれた。

「無事で…よかった…!」

疲労しきっている一騎は答えない。
それでもよかった。

一騎がこの腕の中にいる。
生きている。

これ以上、望むことはない。

一騎の温もりを感じながら、目を閉じる。


その頬に、涙が一筋、こぼれ落ちた。






end











 PRAYERの総士バージョンです。一騎に合わせて総士も…と、パッと思いついたものなんで、なんか中途半端な…(-_-;)
 この総士は白いです。黒も良いが白い総士も良い!(終わってるよ此奴…)





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