あれは、まだ僕らが何も知らなかった頃。 何をするわけでもなく浜辺で波打ち際を歩いていた。いわゆる、散歩。 そんな些細なことでも僕らには楽しくて、十分遊びと呼べるものだった。 「総士、総士」 無邪気に笑いながら君は僕を手招く。 好奇心のままに近づくと、君は両手を差し出した。 「これ今そこで見つけたんだ。面白い形してるだろ?」 そうだね。ハート形に見えるね。 「面白いよな。もっと他にもあるかな」 それは一つだけだよ。似たようなものがあっても、同じ物はない。 「え? なんで?」 蛤はね。一つ一つ形が違うんだ。同じ貝の殻でないと決して閉じられないようになっている。だから、その形もそれ一つだけだよ。 「そっかー。じゃあこれは世界で一つしかないんだ」 そうだよ。一騎は凄いね。そんな珍しいものを見つけたんだから。 「そっか?」 うん。せっかくだから持って帰ったら? 今日のお土産に。 「そうだなー」 君は少し考えて。 繋がっていた二枚の貝殻をおもむろに分けた。 「はい、総士」 …くれるの? 「うん。オレと総士で一枚ずつ持っていよう」 ありがとう。 手の中の貝殻を見つめる。 この蛤のように、僕らも互いでなければ決して合わせられないのだと。 互いでなければ埋められないのだと。 最期まで君は、気付いてくれなかったね。 そして僕は、伝えきれなかった。 君は悲しそうに涙を湛えたまま、蒼穹の彼方へ行ってしまった。 あの頃の笑顔も、失くしたまま。 遠く、決して手の届かない所に。 もう意味の無い宝物。僕と彼を繋いでいたもの。 ゆっくりと手を開き、蒼い海へ放す。 高い音を立てて、白茶の心は砕けた。 コピー本【天国より野蛮】より。総士視点です。 5話頃に書いたものなので、一騎が翔子みたいになったら…という感じで。 単に「世界で一対だけの存在」っていうのを書きたかっただけなんですが、10分で書いた駄文なんで意味不明(殴)。 貝合わせはやったことないんですが、一度遊んでみたいです。 |