冬の朝とは冷えるものだ。 この季節ほど布団が恋しい時期はない。 そんな朝に、心地よい眠りを邪魔する音がした。 トン。 トン、トン。 周囲を気遣っているのか控えめな、しかし存在を主張するその音はなかなか消えない。 最初は無視するつもりだったが、あまりに続くので、僕は呼ばれるままに起きあがった。 布団を身体に巻き付けて冷えていく足を擦りながら窓へと近づき、一気にカーテンを開ける。 「総士。おはよう!」 そこにいたのは綻ぶような笑みを浮かべた一騎だった。 「…おはよう」 「あ、ごめん。寝てたか?」 無意識に憮然としている僕の表情に一騎の顔が曇る。 「まぁね。で、こんな早くから何の用事なんだ?」 幼いとはいえ一騎は真壁家の家事を担っているから、朝は早い。彼にとっては普通に起きている時間だったのだろう。 しかし他の家の子どもはそうでないことは、一騎も心得ている。人一倍他人を気遣う彼が何故早朝に来たのか、その理由に興味はあった。 「う、うん。あのな…」 一つ呼吸して、意を決した一騎が後ろ手に回していたものを差し出す。 「誕生日おめでとう、総士」 眼前に出されたのは、白い小さな雪ウサギだった。 「え…?」 「朝起きたら外が真っ白でさ。夜中に雪が降ったみたいなんだけど、少しだったから日が昇ると同時に溶けてきちゃって…。その前に総士に見せたくて…」 子どもの掌に乗るほどの、小さな小さなウサギ。 雪で作られているのだから冷たいはずなのに、何故か気にならずに僕は戸惑うことなく受け取る。 「ありがとう、一騎」 狭い島内とはいえ、子どもの足ではそれなりに距離がある。おそらく一生懸命走ってきてくれたのだろう、その好意が何より嬉しかった。 「うん。あ、誕生日プレゼントはちゃんと別に用意してるから! これはただのおまけだから」 一騎は器用なのでプレゼントはいつもかなり出来が良い。それは毎年の密かな楽しみでもあった。 実を言うと、一騎が自分のために一生懸命作ってくれたという事実が一番嬉しいのだが、それはまだ幼い2人には秘密にすべきだ。 「そう。楽しみにしてるよ」 そう言って微笑むと、一騎は花のように笑った。それを見て、僕の笑みもますます深くなった。 「じゃあ、またな」 「ああ、気を付けて」 昇りかけた太陽も、所々で反射する雪解け水も、その中を駆けていく一騎も、キラキラと光って眩しかった。 誕生日の朝にこんな素敵なものを見れたのは嬉しいかもしれない。 そう思っていたら、手の中のウサギが溶けはじめて水滴が落ちていることに気付いた。 「いけない。崩れる…!」 僕は慌てて台所の冷蔵庫へと走った。 総士誕生日話。一騎誕生日は誕生日判明時点で過ぎていたので、せめて彼だけは!と。 何とか当日中には書けましたね。日記にだけど(殴)。 ちなみに総士もまだ『世界の事実』を知らない年齢です。その割に結構大人びた思考回路してますが、まぁ総士なので(笑)。 |