吸引戦隊カービィファイブ
〜・・・敵っぽくないんだよなー・・・〜
「あたーらーしーぃ、あーさがきたー♪きーぼーおーのぉーあぁーさーがー♪」
早朝、カービィ達5人がラジオ体操でおなじみの歌を熱唱しています。凄まじい威力を発揮する歌声が5人前です。山々の木々はビリビリと震え、鳥が山火事でも起こったかの様に逃げていきました。
「はいー、ぐるーりと体を回しましょー♪いーち、にぃーい♪」
本来のラジオ体操なら、万歳して腰を回すところですが、カービィ達はスマブラのキャラクターセレクトの時の様に回っています。1人ならほほえましい光景ですが、5人そろうとナカナカ凄いモノがあります。
「あっ、うめぼっちゃん離脱!目を回して方向感覚、平衡感覚ともに狂っている模様!どっかにフラフラ歩いてく。」
「くさもっち、引き戻しといて。はいー、次はじゃーんぷ♪」
ドリブル中のバスケットボールの様です。その調子でラジオ体操は進んでいき、首を回すところで全員が挫折して終わりました。
「うーん、たまには早く起きて体操するってのもイイもんだねぃ♪クミンみたいな気分になるよ。」
「めんどいから、つっこみはやめとくよ、キービィ。」
「他の人といっしょに出来ないのが残念だなぁ。何でみんな歌の時に逃げていくんだろ?」
「・・・カーくん達、体操終わった?」
「あ、アドちゃん。うん、終わったよ。」
「じゃ、歌も終わったのね。よかった。」
「何で歌を聞いてくれないの?」
「死んじゃうもん。」
「えっ、歌聞くと死ぬの!?じゃあ、アニメのオープニングもエンディングも聞けないんだね。かわいそう。『ゾ●ド』のオープニング、かっこいいのに・・・」
「そーゆーわけじゃないんだけどねー・・・」
「えー、じゃ、僕の『おお シャンゼリゼ』も聞いたら死んじゃう?」
「うあーっ!?」
「きゃーっ!?」
いきなり後ろにカイムが立ってます。
「いつ来たのよっ!」
「けっこー前♪桃くん達のラジオ体操見てた♪桃くん、だめだよー、体を回すってのはこーんなふーに腰をぐるーっと・・・」
「胴体がない奴に言われたくないなー・・・」
「笑顔を振りまきながら、体操しないで。何か怖いじゃないのよ。こぅ・・・何か・・・『眠いのに何が嬉しくて体操しなきゃならんのだ、こんちくしょー!希望より寝坊の朝を満喫したいのにー!』みたいな表情を・・・」
「だってさー、悪役は笑顔が命なんだよ〜♪」
本当でしょうか。
「アドちゃん・・・それ、実体験みたいだね・・・」
「誰もが思っていることよ。・・・それより葬式頭、何の用?」
「葬式、葬式言わないで〜♪」
「ひっついてこないでよ!じゃあ、モノクロよ、モノクロ!はい、決まり!」
「モノクロかぁ・・・うん、そっちの方がいいね♪」
「で、何の用なのよ?」
「遊びに来ただけ〜♪」
「こんな早朝に・・・」
「こーゆー時刻に起きてんのは、体操してる人と、運動部部員と、ゲンコーが間に合わない某部部員ぐらいだと思ってたけど・・・早起きの暇人?」
「暇ってゆーかー、遊ぶ人がいないんだもの。もー、目玉しかいないんだよ。前見たら目玉。後ろ見たら目玉。右見て左見て・・・」
「手を挙げて渡るんでしょ?」
「あっ、言わないでよ〜僕が言いたかったのに〜・・・」
「あー・・・朝って寒いわねー・・・」
アドがわざと視線をそらせて言います。
「あきれられてるよ。」
「覚悟の上っ・・・て感じだよ♪とにかく、1人でぼんやりしてるのもナンだから、遊びに来たの♪」
「これからボク達朝ご飯なんだけど・・・」
「じゃ、僕も食べてく♪」
「キービィ、いいの?・・・あれ、キービィ・・・どこ?」
家の中からコック帽をかぶって、おたまを持ったキービィが飛び出してきます。
「呼んだ?」
「呼んだ。」
「用件は?早くしないとガラムマサラ君がこげちゃう。」
「が・・・がら・・・?」
「ガラムマサラ。カレーなべの名前だよ。」
「名前つけてんの?」
「うん。スプーンがインディア君で、おたまがスパイシー君、帽子がツヒコー君だよ。で、用件は?」
「朝ご飯、1人追加なんだけど・・・」
「いいよ、まかせて♪行くぞ、スパイシー君ー♪」
キービィは、おたまをブンブン振り回しながら家の中へと入っていきました。
「キービィ特製、『ヘルカレー』!」
ルーが燃える様な赤色をしています。
「・・・地獄ラーメンなら聞いたコトがあるけど・・・」
「もちろん地獄の意味があるし、『減る』と『経る』の意味もあるよ。辛いモノ食べたら体重が減るし、辛いから食べるのにかなりの時間がかかる・・・『経る』には時間がかかるって意味があるんだよ♪」
「ぅっわー・・・くだらないなー・・・」
「ブラックカレーよりは辛くないから、バリバリ大丈夫だよ。」
「キービィだけね。・・・とりあえず食べよう・・・いただきます。」
スプーンを口に入れた瞬間、みんなホワイトアスパラガスに群がります。
「えー・・・そんなに辛かったぁ?・・・カイムは?食べてみてよ。」
「うーん、僕、辛いモノ嫌いじゃないけど・・・辛すぎるのはちょっとねー・・・でも、チャレンジしてみるね♪」
ルーとご飯をすくって口に運びます。
「どぅ?」
「・・・」
笑顔を浮かべている・・・と言うよりは、顔に張り付いていると言った方が正しいでしょう。3秒ほど硬直した後、コートの中に顔を引っ込め、ケホケホとせき込みます。
「・・・そんなに辛いのかなー?」
「・・・ふぇーん、ピリピリする〜・・・アップル・ティーある?」
「あるよー。」
カイムはキービィからアップル・ティーと角砂糖をもらうと、ティーカップにその角砂糖をドボドボと放り込みます。少なくとも、7個は入っています。
「・・・甘すぎるんじゃない?」
「いつもこのぐらい入れてるもの。」
じゃりじゃりいわせながら飲んでいます。
「ボクさ、紅茶ってさー・・・優雅なモノだと思ってたのにねー・・・」
「自販機で売られてるくらいだもの。もぅ全然優雅じゃないよ♪」
カイムは再びカレーを口に運びます。今度は何事もなかったかの様に食べてしまいました。
「おいしかったねー♪」
「でしょ?ただ辛いだけじゃないんだよ♪」
「砂糖ザラザラの紅茶飲んだのに・・・平気なの?」
「一度慣れちゃえば軽いもんだねー♪」
「あ、ギターがある。」
「弾きながら歌ってみよーか?リクエストにお答えしまーす♪」
「ホント?じゃ、『Wild Flowers』歌って!『Wild Flowers』!」
「その次は、『Justice For True Love』!」
「じゃ、『toi et moi』もお願い♪」
「私は『EYE CONTACT』!」
「アドちゃ〜ん、その曲デュエットだから無理だなー♪」
リクエストを全て歌いきる頃には、午前9時になっていました。
「ねーねー、桃く〜ん。ナックルジョーってここに来ないのぉ?」
「来ないよ。9時だから・・・まだ起きてないね。いつも11時ぐらいまで寝てるから。朝ご飯とお昼ご飯いっしょに食べてるし。」
「ポポくん・・・くわしいね。」
「べべべ・・・別に深い意味はないよ!」
「何慌ててんのさ。」
「じゃ、起こしに行きましょー♪」
カイムはカービィの家から飛び出します。
「・・・!待てぇ!そーはさせるかぁ!」
カービィはコートにしがみつきます。しかし、止めることは出来ませんでした。カイムはカービィを●ッコちゃん人形みたいにブラブラさせながら、ナックルジョーの家に向かって走っていってしまいました。
「・・・上の文の表現がわかる人、どのくらいいるかなぁ・・・」
「はいー♪到着〜♪」
カイムはあっという間にナックルジョーの家の前に着きました。カービィはコートをよじ登り、カイムの後頭部をポカポカと殴ります。
「ボクのヘルパーになれなれしくしないでよぅ〜!」
「まだしてないじゃ〜ん♪」
「過去のコトをあわせて言ってんのぉ!」
「おじゃましま〜す♪」
「入らせるかぁー!」
カービィは家の中に入りかけるカイムを止めようとします。短い足で必死にカイムの首をはさみ、両手で家の壁をつかみます。
「はーなーしーてーよぉー・・・」
「はーなーすーかーぁぁ・・・」
見た目はバカ以外の何者でもありませんが、本人達はかなり真剣です。緊迫した雰囲気がストーブをつけっぱなしにしている閉めきった部屋の一酸化炭素のごとく漂っています。
「桃くんっ!離してくれないと殴っちゃうよぉ!」
「殴られても離さないもーん!」
「桃くんのバカぁ!」
「ばっ・・・バカぁ?バカって言うなぁー!カイムのばーか、ばーか、ばぁーかぁぁ!」
「僕、バカじゃないものー!」
「ウソつけぇー!自分で自分のコト『バカじゃない』って言う奴はバカなんだよぉー!」
「ギター弾けるからバカじゃないものー!」
「それがどーしたぁ!ボクなんか、能力ミックスが出来るんだぞぅ!」
「能力ある敵を2匹食べるだけじゃないー!」
「あっ・・・言っちゃダメなコトを・・・カイムのドバカぁ!」
「ドバカって何さー!」
「造語だよー!」
「ドーバー海峡みたいー!」
「・・・どこなのさ、どーばー海峡って。」
「イギリスの辺だよ。」
「ふーん・・・そーじゃないよ!ドがダメだったら、『超』つけるよ、『超』!」
「あんな面白くない漢字つけてどーすんのさぁ!何でもかんでも言葉に『超』つけるのは、ボキャブラリーが少ない証拠なんだぞー!」
「・・・『ぼかぶらりー』って何さー!」
「桃くん、知らないのぉー!『用語数』って意味だよー!つまり『超』ばっかり使う人は、自分が使える言葉が少ない・・・つまり、あんまり言葉を知らないバカってコトなんだよー!ティンクルスターは文の表現で、今まで『超』を一度も使ったコトがないのが自慢なんだぞー!毎回毎回、がんばって変な表現を考えてんだー!」
「・・・今はそんなコト関係ないじゃーん!」
「何でケンカしてるんだっけ?」
「・・・えーと・・・あ、そーだ。入らせるかー!」
「あーあー・・・そーだった♪はーなーしーてー!」
「うるさい。」
ナックルジョーが目の前に立っています。
「あ、ジョー。」
「ナックルジョー、おっはよー♪」
「なれなれしくしないでって言ってるでしょー!」
「桃くんのケチー!」
「ケチぃ?・・・言ったなぁぁ・・・『♪』ばっかつけるなぁ!すごろくのコマみたいな外見ー!髪のベタが難しいんだよー!」
「最後のはナンカ違うじゃないー!」
「ケンカなら、家の外でしろぉ!」
ナックルジョーはスピンキックで2人を家の外に蹴り出します。しばらく様子を見た後、ノロノロと布団の中に戻っていきました。
夕方。
「ナックルジョー♪」
「また来やがったな。・・・1球減ったみたいだな。」
「あー桃くん、力尽きちゃって♪」
カイムが180度回ります。カービィは普通の人間なら背中にあたる部分にしがみついたまま眠っていました。
「さんざんわめき合った後さー、疲れて寝ちゃったみたい♪それよりさーついてきて〜♪」
「待てっ!ハイスコアが・・・」
カイムは無理矢理ナックルジョーを引っ張って、どこかへ連れていってしまいました。
カイムとナックルジョーと・・・ついでにカイムのコートにしがみついているカービィが森を抜けます。そこは・・・断崖絶壁でした。その先には海があり、沈む夕日が見えます。
「きれいだね〜♪」
「帰る。」
ナックルジョーは着いた瞬間、帰ろうとします。
「や〜ん、置いてかないで〜1人にしないで〜!」
「気味の悪いセリフを口に出すんじゃねぇっ!」
「えー・・・じゃ、どのセリフにしよーかなー?」
「この下は海流が激しいからな。一度落ちると二度と浮いてこねーぞ。」
「・・・何も言わないからさー、太陽が沈むまでいっしょにいてよー。」
「どっかで聞いたなー・・・」
「おねがーい。」
「帰る。」
「帰らないでって言ってるでしょー!」
カイムはナックルジョーに向かって頭突きをします。
がづんっ
「いってー!ぶつかってくんな、てめー!」
ナックルジョーはカイムの顔面にドロップキックをします。
「顔はやめてってばぁー!」
「胴体がねーから、顔を蹴る以外ねーだろっ!」
「せめて足にしてよ、足ー!」
「顔の方が蹴りやすいんだよっ!」
「僕はなつきやすいキャラなんだよー!」
「・・・どーゆー関係だーっ!」
「どっちも『やすい』って言葉があるじゃない!」
「わけのわかんねーコト、言ってんじゃねーっ!」
その後、30分ほど言い争いが続きましたが、省かせてもらいます。
「あーっ、夕日が沈んじゃったぁ!・・・て、ことで、僕帰るから♪」
カイムはごく自然に帰っていってしまいました。カイムが立っていた場所にカービィが落ちています。
「・・・ふぁー・・・あれぇ?ねぇ、ジョー、ここどこぉ?」
まだ怒りが収まっていなかったナックルジョーはカービィの頭を殴りつけました。