吸引戦隊カービィファイブ外伝
He is not nothing

 


永遠に続くかと思われるほど広い、深い闇が広がっています。

「お前は私の分身だ。」

「・・・」

暗い闇の中に目が覚める様な白い球体が浮かんでいます。そして近くにもう1人。目をつぶり、横たわっていますが、意識はあるようです。

「お前の名前は・・・」 

 

「カイム、お前には一部を除き、感情を一切与えていない。」

「・・・何のためにですか?」

「ただの戦闘道具に感情は必要ない。わかったか?」

「・・・はい。」

「それと、今、お前の体は凄まじい速さで形作られている。へたに実体がない物質を取り込むな。成長が終わった後なら、いったん取り込み、分離するということが出来る。しかし、今、取り込むと、お前の体の一部として固定されてしまう。少なからず、お前に影響が出るはずだ。」

「・・・もし、他人の意識を取り込んだら、その人物の感情が僕の中に出来てしまうということですか?」

「ああ。その人物の意識は完全に消え、感情はお前の物になってしまう。ある程度変換されるから、本人の感情と違いは出るがな。とにかく、それだけは避けておけ。」

「・・・はい。」

 

川に沿って歩いている影が見えます。カイムです。

「ここが、今度侵略する星かぁ。美しい風景って言うのかな・・・よくわかんないけど。」

「・・・誰?」

カイムのいる位置から10メートルほど先に、少女が立っています。

「この辺の人じゃないでしょ?見たことないもの。誰?」

「・・・カイム。」

「名前を聞いてるわけじゃないんだけど・・・ま、いいわ。私はね、ユーアっていうの。友達になってくれる?」

「友達・・・?いいけど・・・具体的には、どーすればなれるのかな?」

「私の話・・・聞いてくれる?」

「話を聞くだけでいいの?」

「・・・うん♪」

 

カイムとユーアは土手に腰掛け、夕日を眺めています。

「きれいよね。私、夕焼けの色って好き♪」

「・・・好き?感情の1つ?どーゆー感じなの?」

「・・・好きなモノ、ないの?」

「わからない。」

「好きなモノってゆーのはね、それがあるだけで、嬉しくなるの。笑いたくなるモノもあるのよ。こーんなふーに♪」

ユーアは満面の笑みを浮かべます。しかし、すぐに寂しそうな表情になります。

「・・・この近くにはね、私の話を聞いてくれる人いないんだ。友達って呼べる人もいないしね。・・・カイム、ありがと♪」

「ねぇ・・・聞きたいことがあるんだけど・・・」

「何?」

「僕も君みたいに笑えると思う?」

「当たり前じゃない。人間は誰でも笑えるのよ♪」

「・・・でも、僕は・・・」

「どーしたの?」

「うぅん、別に・・・ユーアは他に好きなモノある?」

「うん♪音楽が好き♪それとね・・・」

2人の会話は夕日が沈みきるまで続いていました。

 

「カイム、今日はお前を戦闘に導入する。戦闘といっても、ここら一帯の住民を殺すだけだが。」

「殺して、どうするんですか?侵略するだけなら、殺さずに従えてもいいのでは?」

「今回は今までの侵略とは少し違う。ダークマター達やお前の活動源となる『邪悪な物質』をここで調達しておくのだ。理性ある生き物の意識には必ず『邪悪な物質』がある。それを、ここの住民から集めるのをダークマター達と共にやってもらう。」

「でも、意識を取り込んだら、感情が出来てしまうのではないですか?」

「ダークマター達は成長しきった個体だから大丈夫だ。ただ、『邪悪な物質』と意識は強く結びついているらしく、取り込んだ者の意識はダークマターの中で存在し続けるらしいがな。お前には、用無しとなったダークマターを与える。お前の体の物質のほとんどは私と同じだが、生命活動を維持するには、『邪悪な物質』が必要だ。その中のダークマターの意識は気にするな。意識は『邪悪な物質』ほど頑丈ではない。お前が取り込む時に消滅するはずだ。」

「あと1つ聞きたいのですが・・・意識を取り出すのは、どうするのですか?」

「直感でわかるはずだ。そうプログラムしたからな。意識を取り出しても、触るなよ。ダークマターを呼べ。今のお前は、意識などは触るだけで、取り込んでしまうからな。」

「・・・わかりました。」

 

カイムの周りに赤い楕円形の物質が出現します。それは、逃げる住民の足止めをします。

「ダークマター、とどめは頼むよ。」

「わかった。」

カイムは、他の住民を捜します。しかし、後ろから呼び止められました。

「カイム!」

「・・・ユーア。」

「私を・・・だましたの?」

「・・・え?」

「誰も聞いてくれなかった私の話を聞いてくれて・・・いい人だと思ったのに・・・」

「・・・違う・・・だましたわけじゃ・・・」

ユーアはカイムのコートをつかみます。

「じゃなんで、あの黒い奴らの手伝いをしてるのよ!仲間なんでしょ!?あいつらの!」

「うん、仲間だよ・・・でも、僕は君をだます気なんて・・・」

「ウソつき!ウソつき!ウソつきぃぃっ!」

ユーアは、カイムのコートを激しく前後に揺らします。ボタンがちぎれ、ユーアはコートの中を見ました。

「・・・ひっ!」

一瞬、ユーアは息を詰まらせました。甲高く、長い悲鳴が響き渡ります。

「・・・ユーア、僕は・・・」

「化け物ぉ!」

ユーアは後ずさりします。カイムは表情を変えずに話し続けました。

「・・・化け物・・・かもね。でも、だましてない。これは、信じてほしいんだ。・・・ここにいると、ダークマターに殺される。早く逃げて。・・・ユーアの笑顔が見られなくなるなんて・・・イヤなんだ。」

ユーアの表情が少し穏やかになります。カイムに向かって、手をのばしました。

「・・・ごめ・・・」

すると、横からいきなり、黒いビームが来ました。ユーアは吹き飛ばされ、近くの家に激突します。

「何をしている。住民を見つけたら、さっさと殺せ。もしくは、動けない状態にしろ。」

「・・・殺したの?」

「ここの住民は防御力が低いようだ。さっきの技をかすらせただけで、殺すことが出来る。」

「・・・僕が意識を取り出してみる。向こうの仲間を手伝ってきなよ。」

「そうか。じゃ、任せたぞ。」

カイムはダークマターが向こうに行ったのを確認すると、ユーアに近づきます。そして、ユーアの体の上に手をかざします。ユーアの体から、青く光る球体が出てきました。

「・・・死んじゃったんだね・・・死んだ者でないと、意識は取り出せないってゼロ様に聞いたことがあるから・・・」

カイムは青い球体を見つめたまま、しゃべり続けます。

「ダークマターに取り込まれると・・・意識はそのままダークマターの中にあり続けるだって。・・・イヤだよね・・・意識だけがあって、好きなモノを見るとか・・・笑うとか・・・話を聞いてもらうとか・・・そういうことが出来ないんだから。」

カイムは、ユーアの意識に手を近づけます。

「一生笑えないなんて・・・イヤだよね・・・」

カイムはユーアの意識に触れます。

「僕が代わりに笑うよ。」

意識が、カイムの手にとけ込みます。さっきとは別のダークマターが近づいてきました。

「カイム、意識を取り出したのか?取り出したのだったら、私が集めている場所まで持って・・・」

「いーや♪この住民の意識は別のダークマターが持ってったよ♪」

カイムの顔には、満面の笑みが浮かんでいます。

「・・・お前・・・取り込んだのか?」

「うぅん♪相手を油断させるための感情を出してみただけ♪」

「ゼロ様は、そんな感情をお前に与えられていたのか?」

「うん♪このことは、ゼロ様にも話さないでよ。ホントは、誰にも言っちゃダメなんだから。表向きは僕には感情がないってコトになってんだからさ。僕が怒られちゃう。」

「・・・わかった。だが、今、その感情を出さなくてもいいだろう。」

「あ、そーか♪ごっめぇ〜ん♪」

「もう、この近くに住民はいないな。」

「うん♪僕1人だよ♪」

「そうか。じゃ、他の仲間の手伝いをしろよ。」

「おっけー♪そっちもがんばってねー♪」

ダークマターは、来た方へ行ってしまいました。

「・・・僕『1人』だよ・・・ここには。」

 

カイムはあの土手に腰掛け、夕日を眺めています。

「きれいだなー♪やっとわかったよ。・・・でも、1人だとそんなに嬉しくないな。感情がなくても、君がいた時の方が嬉しかった。」

カイムは立ち上がると、その場を立ち去っていきます。一度立ち止まり、土手の方に振り返りました。

「今度、夕日を見る時は『2人』で見られるよーにしてみるね。」

そして、振り返らずに行ってしまいました。

 

「うん♪・・・あの方に伝えて♪『次は僕が行く。』ってね♪」

カイムはダークマターを離しました。ダークマターは空高く飛んでいきました。

「・・・ユーア。今度は『2人』で見られると思う?」


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