国際フォーラム1999/10月号インターネット版

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国際ふぉ〜らむ 1999.10.31発行

(ただいま編集中しばらくお待ち下さい)

おかもと農園便り

岡本 俊則

 先日、ラジオである大学の先生が昔話について語っているのを聞いた。特に日本の昔話は、時代や場所、人物を特定しないという共通点があり、例えば「むかしむかし、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました」式の紋切り型で始まる。その昔話の中でちょっと興味深く聞いたことがあった。  それは、「三匹の子ぶた」の話で、この元となっているのは英国の昔話なのだそうだ。それによるとストーリーはこうである。  むかし、ある所にぶたの家族が住んでおり、ある日お母さんぶたが三匹の子ぶたに向かって言った。「あなたたちも、もう大きくなったのだからそろそろ自分たちで家を作って住みなさい。」そこである子ぶたはワラをもらって来てワラの家を建てる。二匹目の子ぶたは木で家を作る。三匹目はレンガや石で作る、というのは誰でも知っているおなじみの節だ。
 さて、そこにおなかをすかした狼が現れる。狼はワラの家を一吹に吹き飛ばし、中にいた子ぶたを食べてしまった。二匹目の子ぶたの木の家も吹き飛ばし、やはり中にいた子ぶたを食べてしまった。しかし三匹目の子ぶたがいる石の家は吹いても体当たりしてもビクともしない。狼はあの手この手で子ぶたを外に誘い出そうとするが、賢い子ぶたはその手に乗らない。やがて狼は「それなら煙突から入っていってお前を食べてしまうぞお」といって、屋根に登っていった。子ぶたはすかさず大鍋に熱湯を沸かし、狼が上から降りてくるのを見計らってさっとふたを取る。狼がドボンと鍋に落ちると、ふたをかぶせてそのまま煮て食べてしまったとさ。
 ところが、ぼくらが知っている三匹の子ぶたとは少し違う。おなじみのストーリーでは子ぶたは一匹も食べられはしないし、狼だって最後にはしっぽから煙を出しながら逃げていく。もちろんこれは、後世の人が残酷なシーンに手を加えたのであるが、それがとても残念だと先生は言う。もともと昔話には、しばしば残酷な場面が登場するものだ。ただ、そこでは、その場面をことさら詳細には語っていない。このごろ恐怖映画と違って、そこでは血が飛び散ったり、ギャーなんて叫び声も出てこない。きわめて淡々と結果のみが語られる。  話を三匹の子ぶたに戻すと、かつてのイギリスは、(現在もそうだが)牧羊王国であり、家畜が狼に襲われるなんて、日常茶飯事であったに違いない。そんな中で弱肉強食という、どうにもならない自然界の掟を人々は子供たちに伝えなくてはならなかったのだろうと思う。人間もまた、食うか食われるかの緊張感のもとで生きていたのである。
 以前にもこの場で書いたことがあるが、ぼくは自然界の掟からあまりにかけ離れた昨今の日本社会を少なからず憂える者の一人である。食うか食われるかという危うさから開放された現代人は、本当に幸いであるに違いない。が、その反面この近代的人間すら、自然の掟の上に行かされていることをぼくらはあまりに忘れ過ぎていると思うのだ。鶏の肉も豚の肉も原型をとどめないほど加工されて店頭で売られている。それでいて、狼が次々と子ぶたを食べてしまったという描写を残酷と言い、反面巷にははるかに残酷なシーンをビジュアルに映し出す映画やアニメ(!)が氾濫している。無機的な近代社会のひずみとは言えないだろうか。


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